Crispian Balmer Emily Rose Alexander Cornwell
[エルサレム/テルアビブ 24日 ロイター] - イスラエルのネタニヤフ首相は数カ月にわたる政治的混乱と戦争、支持率の急落などに翻弄されてきたが、今回の対イラン攻撃の成功で国内での評価が塗り替えられる可能性が高いと見られている。
ネタニヤフ氏の命令で実行された12日間にわたる空爆作戦で、イスラエルはイラン国内の深部にある核施設を爆撃。イランの主だった軍司令官や科学者を多数殺害し、複数のミサイル施設を狙い撃ちした。
両国は24日に停戦に合意。その直後は互いに相手が合意に違反したと非難の応酬を繰り広げたものの、ネタニヤフ氏は即座に「完全勝利」を宣言し、イスラエル政府は「わが国は歴史的偉業を達成し、世界の超大国と肩を並べる存在となった」とする声明を出した。nL6N3SR148
声明の高揚したトーンは、2023年10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエル襲撃当時と対照的だ。ハマスの奇襲はイスラエル史上最悪の安全保障上の失態となり、ネタニヤフ氏は綿密に築き上げてきた国家の守護者としてのイメージが打ち砕かれ、支持率が急落した。
ヘブライ大学の政治学者、ガイル・タルシール博士はネタニヤフの最近の発言について「(23年)10月7日は跡形もない。彼の関心は今やイランで占められている」と話す。
しかしガザにおける対ハマス戦は今も続き、23年の失態を思い起こさせる要因となっている。そのためネタニヤフ氏には、ガザでの戦闘終結と、残る全人質の解放につながる合意を早急に成立させるように求める圧力が強まりそうだ。
今もガザで生存していると見られる約20人の人質の1人の母親であるエイナブ・ザンゴウケルさんは「全ての人質を取り戻す包括的な合意こそが、今まさに求められている」と訴える。「歴史の記録は今綴られており、その中にまだ埋まっていない章がある。それが『10月7日』だ。ネタニヤフ首相、それをどう書くかはあなた次第だ」とX(旧ツイッター)に投稿した。
<塗り替わる中東の勢力>
ガザを巡る問題が依然として影を落としているとはいえ、イラン攻撃による政治的な効果はすでに現れ始めている。先週発表された世論調査によるとユダヤ系イスラエル人の83%が対イラン攻撃を支持しており、長らく選挙での敗北が予想されていた、ネタニヤフ氏率いる与党「リクード」が今後は支持を伸ばすと見られている。
イスラエルはこの20カ月でめまぐるしく変化した中東地域における立場が、今回の対イラン攻撃で特に劇的な転換点を迎えたと受け止められている。イスラエル軍はこの間にレバノンの親イラン武装勢力ヒズボラを著しく弱体化させ、ガザでハマスに大きな損害を与え、シリアの防空網を壊滅させた。そして今回、かつてはリスクが大きすぎると考えられていたイラン本土を直接攻撃するに至った。
しかもネタニヤフ氏はトランプ米大統領を説得して作戦に参加させ、米空軍しか保有していない地中貫通爆弾でイランの核施設を攻撃させることに成功した。これは長年にわたり米国にイラン空爆を働きかけ続けてきたものの、実現できなかったネタニヤフ氏にとって、まさに大きな外交的勝利だ。
ネタニヤフ氏の側近からは、2023年10月7日のハマスによる襲撃を「失敗」ではなく、「国家を目覚めさせた必要な警鐘」だったと捉えるよう求める声も出ている。ネタニヤフ氏と連立を組む右派政党の政治家、アリエ・デリ氏はテレビ番組で「10月7日はイスラエル国民を救ったのだ」と主張した。
<ガザ戦争終結への圧力>
ネタニヤフ氏は今後、ガザ戦争の終結に向けた交渉を進めるよう圧力を受けるだろう。野党などはネタニヤフ氏が政治的責任を問われるのを避けるために戦争を長引かせていると非難してきた。こうした先延ばしはもう許されないという声が高まっている。
野党指導者ヤイル・ラピド氏は24日、Xへの投稿で「次はガザだ。今こそあそこも決着をつけるときだ。人質を取り戻し、戦争を終わらせ、イスラエルは再建を始めるべきだ」と訴えた。
ガザでの振る舞いによってイスラエルは国際社会から次第に孤立を深めている。イスラエルは数週間にわたり人道支援を遮断。飢餓発生の警告を無視し、ガザの大部分をがれきの山にした。昨年の米大統領選で「中東の平和」を公約に掲げたトランプ氏もここ数週間、イスラエルに戦闘の終結を求めている。
しかしネタニヤフ政権内部には今のところ妥協や交渉に応じる気配はほとんど見られない。極右政党を率いるスモトリッチ財務相は24日、Xに「今こそ全力でガザに向かうべきときだ。仕事を完遂し、ハマスを壊滅させ、われわれの人質を連れ戻すのだ」と投稿。同氏をはじめとする閣内強硬派は、ガザ地区の長期的な軍事占領やユダヤ人入植地の再建を推進しており、こうした動きはパレスチナ人や欧米諸国から激しい反発を受けそうだ。
ヘブライ大学のタルシール氏は、今後のガザ停戦交渉をめぐる展開について、スモトリッチ氏とトランプ氏のどちらがネタニヤフ氏に対してより強い影響力を持つかにかかっているとの認識を示した。