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COLUMN-トランプ関税違法判断に市場反応薄、不確実性は一層強まる恐れ

ロイターSep 3, 2025 4:55 AM

Mike Dolan

- わずか5カ月前まで、トランプ米大統領の関税措置が世界の金融市場にとって全てであり、最悪ならば世界的な景気後退を引き起こす可能性があると恐れられていた。ところが今のところその心配は的外れであったことが分かり、先週には再び関税に対する法的な異議が唱えられたにもかかわらず、誰も気に留めていなかったように見える。

米国が1日のレーバーデーまで3連休だったにしても、「相互関税」などトランプ氏が打ち出した大半の関税は、大統領権限を逸脱して違法だとした8月29日の首都ワシントンの連邦高裁による判断に対する世界的な反応は乏しかった。これは、貿易環境の激変を通じて市場や企業の混乱が既に行き着くところまで行き着いた結果である公算が大きい。

高裁は、10月14日まで関税措置の効力を容認し、トランプ政権が連邦最高裁に上訴する機会を与えている。

トランプ氏は高裁の判断にかみつき、関税が廃止されれば「米国にとって完全な災害になる」と警告した。

関税率が昨年並みの水準に戻るだけで「完全な災害」と言うのは極端な見方だが、トランプ氏の経済政策構想にとっては確かに災厄をもたらしてもおかしくない。政権が年間で約3000億ドルの関税収入を当てにしているからであるのは言うまでもない。

市場で高裁判断の影響を最も強く受けそうなのが米国債だったとすれば、1日の米国債市場が休場だったことが、市場全体の停滞感をある程度説明しているのかもしれない。もっと視野を広げれば、世界中の投資家はまず米ニューヨーク・ウォール街の反応を見ようとして、どう動くか決断するのをためらったのだろう。

 しかし銀行のストラテジストらがとりあえずまとめた資料からは、こうした比較的落ち着いた市場の反応が主に3つの前提に依拠していると読み取れる。

 彼らの見立てでは、「相互関税」を巡る高裁判断は来年の最高裁審理期間中は効力が停止され、最高裁が審理開始を決めれば、10月14日以降も多くの関税は、恐らく来年第2・四半期中になる判決の時期まで維持される公算が大きい。最高裁が審理を拒否する確率は非常に乏しい。

またこれらの関税の発動権限が否定されたとしても、政権は別の法令や取り決めを通じて関税収入を得ることはできる。最も採用される可能性が大きいのは、特定分野に狙いを定めたり、2018年から19年にかけて中国に適用した通商法301条など既存の法的根拠をより積極的に活用したりする方法だ。

もう1つ、関税に対する法的な異議申し立ては既に大方が想定していたという事実が挙げられる。トランプ氏の関税にはこれまでに、カリフォルニア州などから少なくとも8件の訴訟が提起されている。

ゴールドマン・サックスのエコノミストチームは顧客に「最高裁が最終的にどのような判決を下しても、トランプ氏は関税を発動する相当な権限を保有し続ける」と説明した。

<混乱につながる要素>

ただこうした要素が1日の市場の反応の鈍さを説明できるとしても、関税の持続性や対象の妥当性を巡る一連の疑問が浮かび上がってくる。

影響を受ける米企業ないし海外諸国、さらに関税収入を前提として動いている債券市場にとっても、今なお先行きは不透明で、状況は刻々と変化している。

ワシントンの高裁が違法としたのは、4月に発表した「相互関税」と、合成麻薬の米国への流入措置を目的に中国やカナダ、メキシコに課した追加関税。別の権限で発動した鉄鋼・アルミニウムへの品目別関税は対象外で、訴訟が起こされた後に実行したブラジルへの計50%の関税も含まれない。

ゴールドマンは、違法と判断された関税は、米国の実効関税率全体の上昇率11%のうちの8ポイントを占めるとみている。バークレイズは、9月末までの今年度の関税収入の5割が違法とされた関税で、来年度には最大7割に達すると予想した。

最高裁が高裁の判断を支持して違法との見解を示す可能性はゼロではないが、その場合は著しい税収不足を避けるため、政権はすぐにも品目別関税やその他の権限による関税措置に移行しそうだ。

異議申し立てが幅広く予想されていたとすれば、対応策も策定済みのはずで、品目別関税は確かにより持続的で安定的な性質を持つかもしれない。

しかし、最終的な結末がどうなろうとも、影響を受ける企業や各国にとっては「仮定」や「ただし書き」などの不確実性は一層高まるように見受けられる。

ジェフリーズのアナリストチームは、最高裁が相互関税を違法との判決を下せば、米国の輸入企業は既に支払った関税の返還請求が可能になり、混乱につながってもおかしくないと指摘する。

さらに同チームによると、米国が関税と結びつける形で、他の国・地域と結んだ数多くの非公式な貿易協定の再交渉が必要となり、今年目にしたような長く、多大な不確実性の局面に見舞われるかもしれない。

ジェフリーズは「これらの関税は政府歳入になると想定されているため、違法判決は米国財政の持続可能性を巡る疑念を再燃させかねない」と付け加えた。

こうした関税措置とそれらを巡る法的な詭弁がどう展開されても、米経済が巡航速度を保ち続けられる可能性は十分にある。現時点で、第3・四半期の米成長率は3.5%前後と見積もられている。それでも貿易面の不確実性が何らかの形でダメージを生むなら、それは決して短期間で姿を消すことはないだろう。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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