Gavin Maguire
[デンバー 3日 ロイター] - 先進国の電力会社は、データセンターや人工知能(AI)の検索による需要にいかに対応するかに頭を悩ませている。しかし世界的に見れば、人々を涼しく保つことの方が、電力網にとってより大きな負担となり、電力セクターにとってより差し迫った課題となりそうだ。
世界のデータセンターとエアコンの消費電力は、今後10年間でともに3倍に増加すると予測されており、老朽化した電力網や新規電源の整備遅れに直面する電力会社にとって大きな試練となるだろう。
国際エネルギー機関(IEA)によると、データセンターの電力需要は2024年の約416テラワット時(TWh)から、35年までにさらに約800TWh増加すると予測されている。これは、米エネルギー情報局(EIA)の試算によれば、米国内の約7500万世帯が1年間に消費する電力量に相当する。
一方で、シンクタンク「エンバー」によれば、冷房設備の世界的な電力需要は35年までに約1200TWh増加する見込みだ。これは中東地域全体が年間に消費する電力にほぼ匹敵する。
重要なのは、この2つの需要増の発生地域が異なり、需要増に対応できない場合の影響も大きく違ってくるという点だ。
データセンターの増設は主に電力網が整備された先進国で進んでおり、企業やSNSなどによる検索処理の増加が主な需要拡大要因となる見込みだ。
これとは対照的に、エアコン需要の増加はその大部分が新興国で起こる見込みであり、すでに熱中症による死亡や疾病のリスクにさらされている地域の脆弱な電力網に大きな負担をかける。
発展途上国において電力供給が不足した場合、人命や健康への影響は、データセンター向け電力供給が滞った場合の検索速度低下や経済的損失といった影響とは桁違いに深刻なものとなるだろう。
<建設ブームで冷房需要が拡大>
気候変動によって世界各地で熱波が頻発し、特に高湿度により暑さが一層厳しくなる南アジアや東南アジアなどの新興国では、熱ストレスによる被害が深刻化している。
インドの「科学環境センター」が今年4月に発表した報告書によれば、「インドではわずか数日間の熱波でも数万人単位で超過死亡が発生している」という。
こうした状況への対策として、温暖地域では住宅やオフィスで冷房設備の導入が急ピッチで進んでいる。これらの地域では建設ブームが続いており、冷房設備の需要をさらに押し上げている。
IEAによると、22年時点で世界の全世帯のうち約36%が何らかのエアコンを所有していたが、35年にはその割合が50%に達し、50年には60%にまで拡大すると予測されている。
こうした冷房設備の普及拡大に伴い、世界の冷房設備の総設備容量は22年の約850ギガワット(GW)から35年には1750GW、50年には2700GWへと大幅に増加するとIEAは見込んでいる。
<インドが需要をけん引>
すでに世界最多の人口を抱え、35年には世界第3位の経済規模になると予想されるインドが、今後数十年間の冷房需要を主導することになるとみられる。
現在、世界のエアコン設備の約5%(約1億1000万台)がインドに設置されている。これは世界全体の約24億台のうちの一部にすぎない。
しかし、35年にはインドのエアコン設置台数は世界の13%(約5億台)に達し、50年には11億台を超えると予測されている。
暑く湿気が多い気候で、人口増加が続くインドネシアも、35年までにエアコン設置台数が3倍になると見込まれており、ブラジル、メキシコ、中東地域でもエアコン台数は倍以上に増える見通しだ。
<供給拡大の課題>
データセンターおよび冷房設備による電力需要の増加に対して、電力会社は地域を問わず供給拡大を迫られることになる。
しかし、この2つの需要増は電力需要が発生する地域ごとに課題が異なる。米国や欧州では、データセンターの多くが既存の発電設備に近い場所に設置されており、安定した電力を容易に得ることが可能だ。
一方、新興国の冷房設備は多くが新築の集合住宅や未開発地で稼働するため、電力会社は地理的にも広範囲に及ぶ新たな電力網を構築しつつ、供給量も大幅に増やさなければならない。
そのため、インドやインドネシアなどでは短期間で大量の電力を確保するため石炭火力発電の利用が拡大し、大気汚染の悪化を招き、さらなる温暖化につながる可能性が高い。
しかし、エネルギー需要の膨大さを考えれば、化石燃料だけでは供給をまかないきれず、多様な電源を利用することが不可欠になる。
「あらゆる電源を総動員する」戦略により、長期的には再生可能エネルギーなどクリーンエネルギーが発電構成比の大きな部分を占めるようになり、高汚染の燃料を押しのける可能性もある。
しかし短期的には、気温上昇から人命と健康を守るための化石燃料の消費は増える一方で、電力網への負担がさらに深刻化することは避けられないだろう。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)