
Jennifer Johnson
[ロンドン 5日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 優れたホラー映画は、期待と不安の綱引きで観客を揺さぶる。ここ数年、同じような力学が大手メディア企業の舞台裏で働いている。脚本の中心にいるのはユーチューブ。人を魅了する一方で、背筋を冷やす存在でもある。
米アルファベットGOOGL.O傘下の動画投稿サイトであるユーチューブには、ハリウッドの超大作から生放送のニュース専門チャンネルまで何でも並ぶ。ビジブル・アルファの推計によれば、サブスクリプションを含むユーチューブの収益は今年、700億ドル(約10兆9800億円)を超えるという。従来のケーブルテレビ放送とは異なり、複数のチャンネルを一挙に見られる「アグリゲーター」として成功を収め、ニールセンの調査では米国におけるテレビ視聴シェアで11カ月連続首位に立っている。米国の人々は自宅で、ネットフリックスNFLX.Oなどのストリーミングサービスよりも長い時間、ユーチューブを見ているということだ。
人気の高まりを受け、米メディア各社は次々にライブ配信サービス「ユーチューブTV」でのコンテンツ放映を契約している。これは実質、ケーブルテレビ放送に取って代わる選択肢だ。ユーチューブ側は既存メディアのコンテンツを配信する際に提携料を支払う仕組みとなっている。
米英やドイツといった一部地域ではこれに加え、ユーチューブのアプリ内から別の配信サービスに加入できる仕組みもある。ロンドンの視聴者がユーチューブを開いたまま、課金して「パラマウントプラス」の番組を見られる、という具合だ。ユーチューブは当然、利用料の一部を受け取りながら、映画や番組を作るための膨大なコストを負担する必要もない。
ユーチューブと各社の詳細な契約条件は非公開のため、双方がどの程度の利益を得られるのかを測りにくい。放送各社は、ユーチューブという多くの視聴者がいる場所に出向きつつ、自社の配信サービスや地上波・ケーブルのチャンネルへ呼び戻す必要がある。そこなら利用料と広告収入を自社で抱えられるためだ。ユーチューブでは通常、標準パートナープログラムに基づき、広告収入の55%が動画投稿者に渡る。
若年層からの圧倒的な人気を暗に認めたかのように、英放送協会(BBC)はこのほど、ユーチューブとの提携を発表した。BBCが新たに番組を企画し、専用コンテンツを制作する。ユーチューブで先行公開し、その後、自社のテレビ放送や配信サービスでも流す。「デジタルファースト」な戦略自体は目新しくはない。英テレビ局としてはチャンネル4が既に、24年に若者向けユーチューブチャンネルを開設している。ただ稼ぎ方という点では、放送局側が一段踏み込んだ新しい打ち手といえる。
BBCは英国外からユーチューブ上で同社のコンテンツを視聴するユーザーからの広告収入で、見直し中の財政基盤を強化する方針を示している。ただ、この収益はあくまで上乗せ程度で、既存の受信料制度を大幅に補完するものではない。英国内世帯がBBCに支払った昨年の受信料は38億ポンド(約8070億円)に上る。
BBCはユーチューブ上のチャンネル数を50に増やす計画だ。うち7チャンネルは子ども向けとしているが、そうしたコンテンツへの広告にはターゲティングやデータ収集に制限があり、収益化は難しい。あるメディアアナリストは、月に数百万回再生される人気の子ども向けコンテンツの制作者でも、1000回再生あたりの収益は約0.4ドルにとどまる場合があると語った。分析プラットフォーム「ソーシャルブレード」は、ユーチューブの世界平均の「RPM(1000回再生あたりの収益)」を0.25ー4ドルと見積もる。
ただ、放送各社は個人クリエイターよりも有利な条件で独自の契約を結んでいるだろう。英民放大手ITVのように、ユーチューブ向けの広告キャンペーンを直接販売できる例もある。つまり、自動広告市場が全ての販売や価格設定を担うわけではなく、標準的な収益分配率55%を上回る利益を放送局側が確保できる可能性もある。結果として平均RPMは上昇する。
BBCが新設した7つの子ども向けチャンネルのうち1つが、英国外で1日150万人の視聴者を集めたと仮定しよう。ソーシャルブレードによると、これは同局が既に持っているメインチャンネルの総視聴者数の約半分に相当する。さらに子ども向けコンテンツとしては高額の1000回視聴あたり2ドルを獲得できれば、1チャンネルあたり月間約9万ドル、年間100万ドル超の収益が見込める。だが、例えば5000万ドルといった相当な収益を得るには、1日あたり約2800万人の視聴者を獲得し、平均RPMを5ドルとして収益化しなければならない。これは非常に高いハードルだ。
もちろん、ユーチューブに自社コンテンツを一切配信しないという選択肢は存在する。ただそれは同時に、視聴者を逃す道でもある。米メディア・娯楽大手ウォルト・ディズニーDIS.Nは最近、この恐怖を身をもって理解した。15日間の契約紛争を受けて、ディズニー傘下のスポーツ専門局ESPNやABCなど複数のネットワークが、ユーチューブTVから一時的に姿を消した。この騒動は、ディズニーのスポーツ部門の26年度第1・四半期(25年10─12月期)営業利益に1億1000万ドルの損失をもたらした。
放送業界の旧勢力は、新たな覇権を受け入れない限り何も得られない。ただ同時に、自社のストリーミングサービスや価格設定力が弱まる恐れもある。この不公平な取り決めは、まさに悪夢だろう。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)