
Jamie McGeever
[オーランド(米フロリダ州) 15日 ロイター] - 日本経済は過去数十年で初めて「通常の状態」に近いものへと回帰しつつある。このことは、投資家がこの新たな現実をどう解釈すべきか模索する中で、今後は円など日本の資産のボラティリティーが高まる可能性が高いことを意味する。
日本株は過去最高水準となっているが、海外の株式市場も史上最高値を更新しており、それ自体はそれほど驚くべきことではない。日本市場でより注目すべき動きが起きているのは国債と円だ。
日本国債利回りは、イールドカーブ全体で数十年ぶり、あるいは過去最高の水準に達し、この数カ月は利回りが比較的安定している米国など他の主要債券市場との違いが際立っている。
昨年に対ドルのパフォーマンスが主要通貨中最悪だった円は、今年も年初から一段安で推移し、14日には1ドル=160円前後と18カ月ぶりの安値に沈んだ。これは過去に日本の財務省が円買い介入に動いた水準だ。
こうした動きには一見すると矛盾があるように見える。中央銀行の利上げや国債利回りの上昇は、本来なら通貨を下支えするはずではないだろうか。
しかしこの論理がいつでも成立するわけではない。日本特有の債務構造やインフレの歴史を考慮すると、なおさらだ。
<世界で最も慎重な利上げ>
日本は長期に及ぶデフレ停滞から経済を引き上げようとして、「量的緩和」による国債買い入れ、借り入れ、財政拡張、そしてゼロ近傍の金利政策などを長年にわたり継続。その結果、公的債務残高の対国内総生産(GDP)比が230%を超え、世界でも最も高い部類となっている。
日本はデフレとの戦いに勝利したように見える。年間インフレ率は約3%で推移し、2%とする日銀の目標をほぼ5年連続で毎月上回っている。賃金の伸びも近年は堅調で、足元では鈍化しているものの、依然として強い。
日銀は利上げに踏み切ったが、ペースは慎重だ。先月には政策金利を0.5%から、30年ぶりの水準である0.75%へと引き上げた。これは現代史上で最も緩やかな金融引き締め局面であり、2年間の利上げ幅はわずか85ベーシスポイント(bp)にすぎない。しかしそれでも、デフレに苦しんできた日本が、もはや異常な存在ではなくなりつつあるのは確かだ。
独立系経済評論家のマシュー・クライン氏は「日本国債の価格は、問題を示唆するどころか、日本が少なくとも1つの重要な点においては他の先進国と収れんしたことを示している」と指摘する。
<為替ボラティリティーの上昇>
これが事実だとしても、多くの日本企業や消費者、投資家にとって30年ぶりの高金利は未知の領域への一歩だ。そこには不確実性が漂っており、その結果として予想ボラティリティー(変動率)が高まる可能性がある。
このことは、最近の日本国債の利回り上昇が円にこれほど逆風となっている理由を説明するのに役立つ。投資家は歴史的にみて高い借り入れコストが財政危機を引き起こし、そのために日本国債と円への圧力がさらに高まるのではないかと懸念しているようだ。
円のボラティリティーはすでにここ数年、じわじわと高まっている。22年後半以降にドル/円の3カ月物予想変動率(インプライド・ボラティリティー、IV)はユーロ/ドルやポンド/ドルを一貫して上回り、ときには大きく超える場面も少なくなかった。
しかし常にこのような状態が続いていたわけではない。過去25年の長い期間にわたり円の「ボラティリティー」はユーロやポンドと同程度か、それを下回る水準で推移していた。
しかし時代は変わった。そして円の「ボラティリティー」が高止まりすると予想する理由には事欠かない。
インフレ調整後の実質金利や利回りは依然としてマイナスだが、名目金利は上昇しており、高市早苗首相の景気刺激策導入計画を背景に、さらに上昇しかねない。米国など他の先進国との金利差は縮小しており、特にこの状況で日本の当局がる為替介入を発動すれば、円の反発を引き起こすかもしれない。
日本の当局は22年に2回、24年に2回の円買い介入を実施した。市場参加者は5回目の介入に警戒感を強めている。
日本は数十年ぶりにインフレ、賃金上昇、借り入れコストの上昇を同時に経験している。これは「新常態(ニューノーマル)」であり、慣れるまでには時間がかかるだろう。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)