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COLUMN-〔BREAKINGVIEWS〕サイバー攻撃のリスク、顧客だけでなく保険業界も動揺

ロイターDec 3, 2025 2:55 AM

Aimee Donnellan

- 保険の仕組みは単純明快だ。米南部フロリダ州のように暴風雨が襲うことが多い地域に不動産を所有する場合、ハリケーンで家が壊れるリスクをカバーするため高額な保険料を支払うことになる。しかし、サイバー攻撃が企業に及ぼす脅威は同じように深刻であるにもかかわらず、保険市場はむしろ機能不全に陥っているように見える。

神経質な企業トップらはサイバーリスク保険をけちった場合、どのような結末をもたらすのかを示す恐ろしい事例を数多く知っている。時価総額1840億ドルの米通信大手AT&TT.Nは昨年、1億件を超える顧客記録への不正アクセスを受けたと発表した。

今年サイバー攻撃を受けた時価総額90億ドルの英小売り大手マークス・アンド・スペンサーMKS.Lは、約3分の1の損害しか保険でカバーしていなかったと明らかにした。インド自動車大手タタ・モーターズ傘下の英高級車メーカー、ジャガー・ランドローバー(JLR)も最近、サイバー攻撃で生産停止に追い込まれ、英政府の支援を受ける羽目になった。

ところが、サイバーリスクに対する保険料は上昇するどころか、下落している。米保険仲介大手マーシュによると、2025年第3・四半期の世界でのサイバーリスク保険料は6%低下した。

英保険会社ビーズリーBEZG.Lも、25年1―9月のサイバー保険料が前年同期比で8%下がったと先週発表した。同社は「市場でのランサムウエア(身代金要求型ウイルス)の請求の頻度と深刻さが増している」と認識しているものの、保険料は22年以降に下落傾向にあると指摘した。

課題の一つは、新規参入企業の急増による供給過剰だ。従来、サイバーリスク保険はビーズリー、チャブ、ミュンヘン再保険MUVGn.DE、アクサAXAF.PA、フェアファックス・ファイナンシャルFFH.TOといった専門企業が提供していた。

ところが近年では、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ(PE)、さらにカウベルやコアリションなどの投資家から資金提供を受けたIT主導型企業も市場に殺到している。

一方、需要は見た目ほど強くない可能性がある。コスト意識の高い経営陣は、痛みを伴うサイバー被害を回避できるかもしれないと考えるかもしれない。英政府がJLRの支援に乗り出したことで、こうした安易な考えはさらに強まった。

いずれにしても、価格下落が恒久的なものになるとは限らない。英リスク専門保険会社のビーズリーは、エイドリアン・コックス最高経営責任者(CEO)が米国のサイバー保険市場について「採算が取れない」と見なしており、慎重にアプローチしている。

サイバーリスク保険の成長性にもかかわらず、他の保険会社も警戒すべき理由がある。

サイバー関連の保険請求は、洪水といった他のリスクに比べて発生頻度が依然低いという点が根強い懸念材料だ。つまり相対的にデータが不足しているため、保険料の設定が困難だ。ある保険会社の幹部はReuters Breakingviewsに対し、ランサムウエアなどのサイバー攻撃の被害に遭った企業は、何が問題だったかを詳しく説明することでサイバー関連の被害に関する既存情報の蓄積を増やすことに消極的だと明らかにした。

現状では、投資家は慎重な姿勢を評価していない。ビーズリーの株価は米サイバー保険市場への慎重な姿勢を示して以来、9%下落している。同社のスタンスから得られる重要な教訓は、市場シェアを追う競合他社も、保険を回避して運任せにする軽率な企業トップと同じように結局は高額な請求書を抱えることになるかもしれないということだ。

●背景となるニュース
*ビーズリーは2025年1―9月のサイバー保険の総保険料収入が前年同期より8%減ったと報告した。同社のエイドリアン・コックス最高経営責任者(CEO)は、米サイバー保険市場は「採算が取れない」状態になったと発言した。



(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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