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COLUMN-9月も動けず、最長記録更新の日銀「利上げインターバル」=上野泰也氏

ロイターSep 25, 2025 3:20 AM

上野泰也 マーケットコンシェルジュ 代表

- 日銀は9月18、19日に開催した金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決定した。タカ派の審議委員2人が追加利上げを主張したものの、反対多数で否決された。

1月24日の利上げで政策金利が「0.5%の壁」に到達してから、8カ月が経過した。この先まだ利上げがあるという前提で言うと、この8カ月というのは1998年4月に現在の日本銀行法(新日銀法)が施行されて以降の利上げ局面で最も長いインターバルである。

日銀によるこれまでの利上げ時期とインターバルを確認しておくと、次のようになる。

【速水総裁時代】ゼロ金利解除(00年8月11日)のみ

【福井総裁時代】ゼロ金利解除(06年7月14日)→インターバル約7カ月→0.5%への追加利上げ(07年2月21日)

【植田総裁時代】マイナス金利解除(24年3月19日)→インターバル約4カ月→0.25%への追加利上げ(24年7月31日)→インターバル約6カ月→0.5%への追加利上げ(25年1月24日)

仮に国内の政治情勢に見きわめがつき、新体制の政府・与党が日銀の追加利上げを容認することに自信が持てる場合は、10月末の次回会合で、日銀が説明責任の観点からはやや強引に追加利上げに動くことがあり得る。

その場合、前回の利上げからのインターバルは約9カ月になり、新日銀法下での最長記録を更新する。

一方、26年春闘における賃上げの手ごたえを確認するという、説明責任をしっかり果たすことのできる手順を日銀が踏む場合は、年明け1月の会合で日銀が追加利上げに動くシナリオが有力視される。

けれども、26年1月の利上げとなると、前回利上げからのインターバルは約1年という、先進各国の中央銀行でも事例がめったにない異例の長さになる。「利上げ局面」が続いていると形容することにも若干のためらいが生じる。

また、本欄でも以前に指摘したことだが、上記の日銀利上げの実例6つのタイミングは、2つの四半期に偏在している。

すなわち、1-3月期が3回、4-6月期が実例なし、7-9月期が3回、10-12月期が実例なしである。

利上げの実例がなかった四半期については、1-3月期に政策金利を動かした後の様子見期間に4-6月期がなりやすかったこと、10-12月期には政府が補正予算を伴う経済対策を策定することが多く、景気を圧迫する利上げとのかみ合わせがよくなかったことが理由として考えられる。

さらに、植田日銀の下では、春闘で大筋が決まる賃上げ率が、利上げ判断を左右する大きなファクターになっているので、翌年の春闘の手ごたえをその年の10-12月期ではまだ得にくいことも、この四半期には利上げに動かない理由になる。

9月会合で、0.75%への追加利上げの議案を提出して議長案に反対したのは、タカ派とみられている高田創審議委員と田村直樹審議委員で、ともに大手銀行出身だ。

日銀の対外公表文によると、高田委員は「物価が上がらないノルムが転換し、『物価安定の目標』の実現がおおむね達成された」として、また田村委員は「物価上振れリスクが膨らんでいる中、中立金利にもう少し近づけるため」として、即時の追加利上げを主張した。

よほど大きな状況変化がない限り、タカ派の委員2人が掲げる上記の利上げ主張の根拠は撤回されにくく、次回ないしそれ以降の会合でも、利上げを主張する票が入り続ける可能性が高い。

したがって、植田和男総裁が率いており3票を握る日銀執行部が利上げにいつゴーサインを出すのかに焦点は絞られる。執行部の3人が次回10月会合で利上げに賛成すれば、他の政策委員の動向にかかわらず、過半数の賛成が確保されるというわけである。

市場では、昨年12月の会合で田村委員が利上げを主張し、今年1月の会合で利上げが決定されるという事例があったことから、10月利上げへの警戒感が強まっている。

けれども、植田氏は9月19日の記者会見で、「これらの提案に対して他の委員は反対されましたので、必ずしもそれぞれが提案された理由に、完全には同意されなかったということになるかと思います」と述べ、マイルドな言い回しながらも、2つの提案理由への同調者は今回はいなかったとした。

その上で、植田氏は次のように述べて、総裁自身もこれら2人の見解からは距離を置いていることを明言した。

高田委員の見解については、「基調的な物価上昇率という表現で申し上げれば、(中略)私の評価としては、まだ少し下回っていて、しかし2%に向けて近づきつつある過程にあるという評価」だと説明。

田村委員の見解については、「米国の関税政策の影響等がこれから一段と出てくる可能性がある中で、景気に対する下振れリスク、それを通じて物価に対する下振れリスク、これも意識しないといけない」と述べた。

次回10月の金融政策決定会合までの1カ月ほどの間に、上記の植田氏の見解が急に大きく変わるとは、なかなか考えにくい。

仮に国内政治情勢の見きわめが十分つくなどして、総裁が10月というタイミングでの追加利上げにゴーサインを出す場合でも、上記の委員2人と同じ理由を掲げることはないだろう。

また植田氏は、結果的に失敗に終わった00年8月のゼロ金利解除を、審議委員としてじかに体験している。議決延期請求権を行使するほどの政府の強い反対姿勢を押し切っての強行利上げだったが、この際植田氏自身はゼロ金利解除に反対票を投じている。

日銀と政府の対立関係があらわになることを気にかけずに、植田氏が利上げを強行する姿を筆者は想像できない。表立って日銀関係者が口にすることはないものの、「政府との間合い」は追加利上げのタイミングを大きく左右するポイントである。

ちなみに、自民党総裁選で最有力候補とみられる小泉進次郎農相は、9月20日の記者会見で、総裁選に勝利した場合は「直ちに物価高対策を中心とする経済対策を検討し、その裏付けとなる補正予算を臨時国会に提出する」と表明。金融政策は日銀の専権事項だとしつつも、政府の経済政策の方向性は「しっかりご理解いただきたい」と述べていた。補正予算案編成・国会提出と重なる時期の利上げには、抵抗感があるかもしれない。

為替相場がここから円安・ドル高方向へ大きく動いてしまうと、国民も、政府も、そして日銀も困る。したがって、たとえインターバルが一段と長くなりそうだとしても、「追加利上げの構え」を日銀は崩そうとしないだろう。円安の進行をけん制する役回りである。

国内債券市場では、「ターミナルレート」がなかなか明確にならず、金利の目線が定まらないこともあって、買いが強まりにくい地合いが継続中だ。そうした状態は、この先もしばらく続く公算が大きい。

編集:宗えりか

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、経済・金融市場に関する情報を発信する「マーケットコンシェルジュ」の代表。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から25年6月までみずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。25年7月より現職。

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