TradingKey ― H20チップの中国市場への「解禁」を受け、NVIDIAは次世代の中国特化製品の展開を加速している。ロイターが8月19日に報じたところによると、同社は最新のBlackwellアーキテクチャを基盤にしたAIチップ「B30A(仮称)」を開発中で、現行の主力製品H20を上回る性能を持つとされる。この新型チップは単一ダイ設計を採用し、早ければ9月にも中国顧客へのテストサンプル出荷が開始される見通しだ。
NVIDIAは声明で「すべての製品は完全に承認済みであり、有益な商業用途のみに供される」と強調している。しかし、この説明には依然として厳しい視線が注がれている。一方では米国当局による輸出規制承認が不透明なままであり、他方ではトランプ政権が、NVIDIAが中国でのチップ販売収益の15%を納付することを条件に輸出許可を与えたと認めている。この措置は「みかじめ料」と揶揄され、地政学的対立下におけるテクノロジー貿易の複雑な力学を浮き彫りにしている。
問題は既存のH20チップにも集中している。H20は「時代遅れの製品」との烙印を押され、中国国内の代替品に性能面で劣後しているのだ。IDCの予測によれば、中国製AIチップの市場シェアは2023年の17%から2027年には55%へ急伸する一方、NVIDIAを含む米系企業のシェアは45%に低下する見込みである。国内GPUメーカーは、過去の「空白期」を活用し急速にシェアを拡大している。
さらに、H20にはセキュリティ上のリスクが浮上している。7月31日、中国国家インターネット情報弁公室はNVIDIAを呼び出し、チップに潜在する「バックドア」脆弱性について説明を求めた。米側がAIチップに意図的にバックドアを組み込み、輸出規制の緩和をその「見返り」とする可能性が議論されてきた経緯もあり、H20の安全性は強く疑問視されている。このため、中国の国有企業や政府関連機関の調達意欲は極めて低い状況だ。
市場をさらに驚かせたのは、NVIDIAが15%の「みかじめ料」を中国顧客に転嫁し、H20の販売価格を最大18%引き上げる計画だ。だが、セキュリティ懸念が払拭されず、かつ国産代替品が勢いを増す中での値上げは「一方的な期待」に過ぎず、実効性を欠く可能性が高い。
NVIDIAは新製品投入を急ぐ一方で、既存製品を巡る困難から逃れられていない。B30Aが承認を得られるかは依然不透明であり、H20にまつわる「バックドア」問題、高価格、性能劣位といった重荷が、中国市場での展望を大きく曇らせている。技術、政治、そして信頼をめぐる多層的な攻防は、グローバルAIサプライチェーンの将来構図を大きく試すことになりそうだ。