Jamie McGeever
[オーランド(米フロリダ州) 18日 ロイター] - 米国の消費支出が予想外に堅調な状況が景気後退を回避しているだけでなく、経済が堅調に成長し続けている主な理由だ。今後の大きな疑問は、米国の家計がこうした流れを維持できるかどうか、とりわけ関税の引き上げによって物価が今後上昇する中で可能なのかどうかということだ。
米国は「消費者」が王様だ。消費支出は国内総生産(GDP)全体の約70%を占めており、人々の消費意欲が変化すれば経済の健全性に直接的で大きな影響を与える。「消費者」は実際には何百万人もの人々だ。そして所得や資産に基づいてグループ分けすると、明らかに富裕層が消費支出全体の多くの部分を担っている。
ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏は今年初め、年収25万ドル以上の米国人、つまり米国民の10%に当たる最富裕層が現在、消費支出全体の半分を占めていると指摘した。この割合は過去最高だ。10%の最富裕層が30年前に占めていた消費支出は全体の36%だった。
ボストン連邦準備銀行が先週発表した論文はザンディ氏の見解を裏付けており、過去3年間の消費者全体の支出額の強さは高所得者層に負っていると結論付けた。しかし、論文の著者らの指摘では、高所得者層はクレジットカードの限度額を使い切っていないためまだかなり余裕があるという。
低所得層と中所得層はともにこの数年間でクレジットカード債務が新型コロナウイルスのパンデミック前の総額水準を超えた一方で、富裕層のクレジットカード債務は2019年のピークを下回っており、パンデミック前の傾向から見てもかなり低い水準にとどまっている。つまり、必要ならば、借り入れによって消費をまかなう余地がまだある。
<収入力>
所得階層全体の消費支出は、収入力の向上が支える可能性もあるだろう。
米国の労働市場は一部指標で軟化しているかもしれない兆しを見せているが、7月の年間平均賃金上昇率はまだ3.9%で、インフレ調整後の実質賃金成長率は年間1.3%のペースで推移する。実質賃金の年間伸び率は過去2年以上にわたり1.0―1.8%の間で推移し、パンデミック以前の10年間の平均を上回っている。
バンク・オブ・アメリカのエコノミストによると、労働者全体の所得はさらに速いペースで増加している可能性がある。彼らの試算では、労働者全体の所得額(雇用数に賃金と労働時間を乗じたもの)は7月に6カ月年率換算で5.5%増加した。この伸び率の大部分は賃金の上昇が押し上げた。
彼らの主張によると、学生ローンを除く家計の債務返済の延滞率が今年に入って落ち着いており、労働所得の強さは消費支出を引き続き支えるという。今後はこうした状況のために、米国は消費低迷から解雇、 さらなる消費低迷からさらなる解雇という景気後退の悪循環を回避できる可能性があるだろう。
こうした見通しはバンク・オブ・アメリカのエコノミストたちが市場予想のコンセンサスと異なる見方を維持している理由の一つだ。彼らは連邦準備理事会(FRB)が年内はまったく利下げをしないとみている。
<警戒信号か>
一方で、より慎重な見方もある。
ムーディーズのザンディ氏はウォール街で調整が起きれば富裕層は資産効果の悪化によって打撃を受けるため「経済が弱いことを前提とすれば、景気後退に陥る可能性がある」と警告する。
米国の富の上位層による株式保有の集中度は極端で、1%の最富裕層が株式資産の50%を、上位10%が約90%をそれぞれ保有している。
家計支出の一部指標は既に「警戒信号」を発している。個人消費支出(PCE)で測定したインフレ調整後の支出は今年前半に横ばいとなった。
しかし、15日に発表された7月の小売売上高は前月比0.5%増となり、6月分は0.9%増に上方修正された。
そうは言っても、関税がある。消費者ではなく企業がこれまでのところ、こうした関税の影響をもろに受けてきた。ゴールドマン・サックスのエコノミストの推定によると、消費者は6月までに関税コスト全体のわずか22%しか負担していないが、トランプ政権が予定する関税が完全に実施されれば、その割合は今後数カ月間で67%まで上昇する可能性があるという。
だから、慎重な見方と楽観的な見方のどちらにも根拠が存在する。今後は富裕層が消費を控えるかどうかに大いにかかっている。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)