Aimee Donnellan
[ロンドン 14日 ロイターBREAKINGVIEWS] - 数年前まで大きな期待を集めていた大麻業界に、かつてほどの高揚はもうない。
収益成長の鈍化と容赦ない規制による打撃を受け、大手の娯楽用大麻メーカーは慢性的な停滞を迎えている。ドイツなど成長が期待される市場での新たな機会を狙って、北米の企業が買収に動く可能性もあるが、業界全体としては沈静化しており、株価に過剰な期待が織り込まれた状態が当面続く見通しだ。
2021年当時、大きな盛り上がりを見せた医療・娯楽用大麻の解禁は、本格的に拡大する気配を見せていた。医学誌「アディクション」に掲載された調査によれば、米国では日常的に大麻を使用している人口は約1800万人と、飲酒者の1500万人を上回る数字となった。ニューヨーク、バージニア、コネチカット、ニューメキシコの4州で娯楽用大麻が合法化され、アラバマ州でも医療目的での使用が認められた。
当時のバイデン政権に対しては、連邦法の改正により大麻企業の金融サービス利用や、州をまたぐ在庫管理が容易になるとの期待も高まっていた。市場全体に広がった楽観的な雰囲気の中、キュラリーフ・ホールディングスCURA.TO、グリーン・サム・インダストリーズGTII.CD、ティルレイ・ブランズTLRY.O、トゥルーリーブ・カンナビスTRUL.CDの4社の時価総額合計は2021年2月に370億ドル(約5兆5000億円)に達した。
これらの企業は大麻の栽培から包装・販売まで幅広く手がけており、LSEGデータストリームの統計からロイター・ブレーキングビューズが算出した数値によれば、当時の予想に基づく株価売上高倍率(PSR)は15倍に達していた。
だが、その数字に託された夢は、いまや煙のように消え去った。
6月にロンドンで開催された大麻業界の会合「カンナビス・ヨーロッパ」でもそのことは明らかだった。主要投資家や企業経営者、銀行関係者らが集まり、業界が直面する最大のリスクと機会に関する率直な意見を交わした。一部の出席者は立ち込める大麻の煙の中で目をしょぼつかせながら、世界各国で右派政権が娯楽用市場の開放に抵抗しているとの指摘を聞いた。債務の増大や適正株価の下落により、事業の新規展開が困難になっているという経営者の声も上がった。
株式相場の動向もこれを裏付けている。LSEGのデータによれば現在、上記4社の時価総額は合計40億ドルまで落ち込み、PSRは1倍強に減少した。調査会社ビジブル・アルファが集計したアナリスト予想によると、4社は今年と来年、赤字が見込まれている。
長期的な問題の1つは、米国やカナダでの合法化によって大麻の供給が急増し、過剰に出回ったことだ。価格は大幅に下がり、激しい競争が起きている。大麻管理局の統計によると、ニューヨークでは2021年の合法化以降、認可販売店の数が300店舗にまで急増。調査会社カンナビス・ベンチマークスによると、この間に米国での平均小売価格は32%下落した。
大麻関連企業は、市場に成長の兆しがほとんどないという残酷な現実を突きつけられている。米国の各州で、大麻を違法とする法律がドミノ倒しのように次々と崩れた際、投資家らは他国もいずれ同じ道をたどると考えていた。だがその期待は、今や幻想に過ぎなかったことが明らかになりつつある。
2024年から今年にかけて、娯楽用大麻を合法化した米国の州は1つもない。トランプ政権が大きな政策転換に踏み切る可能性も低いとみられている。
米麻薬取締局(DEA)は昨年、大麻を物質規制法の分類において「スケジュールII」から「スケジュールIII」に変更する可能性を示唆。連邦規制が一部緩和され、経費の税控除などが可能になると期待されていたが、そのプロセスは現在停滞しているもようだ。
米国以外でも市場拡大は進んでいない。タイでは6月、若年層の依存症への懸念から娯楽向けの使用を禁止する方針が発表された。同国では3年前に大麻を違法薬物リストから外したばかりだった。
<「つぼみ」さえ希望に>
こうした状況で、業界関係者らは意外な場所に希望の光を見出している。ドイツでは昨年、大麻の所持と少量生産を非犯罪化した。ただし商業的な大規模栽培の許可には至っていない。ロンドンでの会合では銀行関係者や投資家が、米国およびカナダの企業が欧州最大の経済圏であるドイツに進出し、成長を取り込む可能性について熱弁を振るった。
ドイツの未上場企業、デメカンやカンナメディカルが買収対象として注目されている。市場調査会社リサーチ・アンド・マーケッツによれば、合法化された同国の大麻市場は2030年まで毎年14%成長する可能性があるという。ただ市場規模はまだ小さく、昨年はわずか3700万ドルに過ぎなかった。
ほかにも障害はある。たとえば認可販売店や薬局向けのライセンスは、欧州各国の指導者が違法輸出の急増を懸念していることもあって実現していない。
ほんの数年前、大麻の市場規模が数十億ドルに拡大するという夢に業界は沸き立っていた。そこから考えれば、現実はあまりにかけ離れている。いまや心躍る材料はほとんど残っておらず、希望が干上がる中では、しぼみかけた「つぼみ」(大麻の隠語)ですら救いに見えてしまう。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)