By Jamie McGeever
[オーランド(米フロリダ州) 24日 ロイター] - 金融市場はここ数年、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ姿勢を一貫して過大評価してきた。しかし直近のFRB幹部らのコメント、経済指標の軟化、そして石油価格の劇的な反落ぶりを見れば、今回こそは市場の読みが正しいかもしれない。
先週の連邦公開市場委員会(FOMC)は、FRBがハト派に傾くというトレーダーの期待に冷や水を浴びせたかに見えた。委員らは経済見通し(ドットプロット)の予想中央値で、年内に25ベーシスポイント(bp)の利下げが2回実施されるとの見方を維持したものの、利下げが1回にとどまるという予想との差は極めて小さかった上、2026年の想定利下げ回数は2回から1回に減った。
市場ではFOMC後の数日間、委員らがタカ派寄りなのはインフレ期待を抑制する決意からだ、との見方が大勢となった。これに伴い、年内の利下げ幅予想は50bp未満に下がった。
しかし、この結論は拙速かもしれない。
第一に、中東紛争を原因とするエネルギー価格上昇の懸念は消えた。13日にイスラエルとイランの戦闘が勃発してから数日間で原油価格は17%も跳ね上がったが、今では急反落している。そしてトランプ米大統領は23日夜、イスラエルとイランが停戦に合意したと発表した。
その上、ここ数日でFRB幹部からハト派発言が相次いでいる。しかも、そうした発言をしているのはいつもの顔ぶれだけではない。つまりFRBは、1週間足らず前に考えられていたよりも利下げに近づいている可能性があるのだ。
<ネガティブサプライズ>
ハト派転換を正当化できる要因は、確かにある。
ファンダメンタルズを見ると、米国の経済データは弱くなっている。シティグループが算出する米国経済サプライズ指数は5月末から下がり、マイナス圏に突入している。これは経済データが市場予想を下回っていることを意味する。先週発表された同指数は昨年9月以来の低水準だった。
もちろん、大きな動きがあった後に経済サプライズ指数を分析する時は、慎重を期する必要がある。そもそも、期待自体が過度に悲観的だったり楽観的だったりした可能性があるからだ。しかし現在のシフトは的確な兆候であるように見える。
シティのスチュワート・カイザー氏は「われわれは、発表されるデータの趨勢(すうせい)と、そのコンセンサス予想との乖離の両方に注目しているが、いずれもマイナス圏に下がった」と述べ、「ハードデータ」自体もマイナス圏に入った点を指摘した。
<180度の転換>
しかし、それ以上に投資家にとって大きなサプライズとなったのは、ボウマンFRB副議長による23日の発言だ。インフレ圧力が「抑制されたままであれば」、7月にも利下げに投票することを検討すると述べたのだ。
ボウマン氏の発言は重要だ。同氏がこの2カ月間、経済や金融政策について公に発言してこなかったのは事実だし、3月には政策議論において労働市場環境の重要性が増すことを示唆していた。
だがボウマン氏は2018年にFRB理事に任命されて以来、一貫してFOMC内のタカ派メンバーの1人だった。
同氏の発言に先立つ20日、最もハト派のFOMC委員の1人であるウォラーFRB理事は、来月の会合で利下げが検討されるはずだと述べていた。こちらは意外感がないが、ボウマン氏のようなタカ派が同調し始めたことには留意する必要がある。nL6N3SN0M6
皮肉屋なら、ボウマン氏の180度転換のタイミングが気になるかもしれない。ちょうどトランプ氏が、パウエル氏が利下げを行わないことへの攻撃を強めた時機だからだ。しかし政治的圧力が影響していることを示す証拠はない。
しかも足元の油価急落はボウマン氏に加勢するだろう。原油価格は23日に7%下げ、下落率は過去3年間で最大となった。米国が週末にイラン核施設を攻撃したことに反応し、朝方は6%上昇して5カ月ぶり高値を付けていたことを考えれば、なおさら目を引く。
その上、イスラエルが最初にイランを攻撃した13日以来、原油価格は一度も前年同日水準を上回っていない。実際、原油価格は1月に比べて下落し、前年比では20%下がっている。インフレが高止まりしているとしても、それはエネルギー価格が原因ではない。これはウォラー理事にとって、そして今となってはボウマン副議長にとって朗報だ。
FRB内のタカ派の1人が爪を収めつつあるように見える以上、トレーダーは今度こそFRBの利下げ姿勢を過大評価していない可能性がある。間もなく利下げが始まり、来年末までに合計125bpの利下げが実施されるという市場の予想は、かなり的を射ているかもしれない。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)