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COLUMN-〔BREAKINGVIEWS〕イスラエル・イラン停戦でも中東情勢を楽観できない理由

ロイターJun 25, 2025 12:23 AM

By George Hay

- トランプ米大統領が5月にサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールを歴訪し、多額の投資案件をまとめ上げた際には、これで中東は安定の道筋に向かうように思われた。それから1カ月が過ぎ、イスラエルとイランの12日間戦争と米軍によるイラン核施設空爆、イランのカタール米軍基地への攻撃を経て、トランプ氏が取り持った停戦の枠組みが果たして以前のような楽観ムードを復活させられるかどうかが問われている。だが明るい見方をするには「既知の未知(問題があると分かっているがその答えは分からない)」の要素が多過ぎる。

石油トレーダーは、まるで全てが正常に戻ったように振る舞っている。24日午前の段階で、北海ブレント8月渡しは1バレル=69ドルと、イスラエルがイラン攻撃を開始した13日よりも前の水準で取引された。価格が一時80ドルまで跳ね上がった場面では、イランがホルムズ海峡の海上交通を妨害し、世界全体の需要の2割を占める同海峡の石油・天然ガス輸送が混乱するのではないかとの懸念が浮上していたが、足元の値動きでそうしたリスクは後退したことがうかがえる。

米軍のイラン核施設攻撃で、イランが核爆弾を手に入れる見通しが消滅したのだとすれば、石油トレーダーが安心するのは正しい。レバノンのヒズボラを含めたイランの代理勢力の力が衰えた点も加味すると、外形的には中東地域はより安全になったのだろう。

しかし実際に核の脅威がなくなったとは到底言えない。イラン最高指導者ハメネイ師は健在で、濃縮ウランの貯蔵状態や貯蔵場所は不明なままだ。

イランの体制自体も不安定化しているようにみえる。一連の戦闘でイランは何人もの軍首脳を失い、あまり効果的とはみなされなかったカタールの米軍基地への攻撃は、イランの強さよりも弱さを表している。事情に詳しい5人の関係者は、86歳を迎えたハメネイ師の後継者探しの動きが加速しているとロイターに明かした。だが1989年以来最高指導者の座にあるハメネイ師から別の人物への権力移行は円滑に進まないかもしれない。

一方イスラエルの作戦が終了したかどうかも極めて不透明だ。軍事的成功によってネタニヤフ首相が率いる連立政権の政治基盤は強固になる公算は大きい。しかしネタニヤフ氏はイランの体制変更を求めるとの明言は避けているとはいえ、これまでイスラエルの攻撃の「結果として」体制変更が起きる可能性には言及してきた。24日午前の時点では、イスラエルとイランの双方が、停戦条件に違反していると互いを非難している。

トランプ氏の主張通りにイランの核開発能力が「完全に破壊された」わけではなくても、開発のスピードは恐らく大幅に遅くなっているだろう。その面でサウジやUAE、カタールはある程度楽観できる余地はある。

ところがこれらの国は10年前、米国や欧州諸国などがイランの核合意を締結した局面でも、同じような安心感を得たのは間違いない。トランプ氏もつい最近まで、核合意の枠組み再建を目指していたようだ。

しかし中東各国が今直面しているのは、潜在的な不安定要素の組み合わせにほかならない。つまり復讐に燃えながら隠忍自重するイランと、仕事をやり残した気持ちを抱えるイスラエルという構図だ。将来にショックをもたらす十分な素地が整っている。


(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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