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COLUMN-大国政治に戻った世界、強者ほど弱者を恐れる逆説の地政学

ロイターJan 26, 2026 5:54 AM

Joachim Klement

- ロシアから米国に至るまで大国政治が世界の舞台に復帰した。ここ数年の動きについて大国がこれまでと変わらぬ行動を取っているだけだと一蹴するのは簡単だが、行動地政学分野での最近の知見は別の力学を示している。

直感に反するかもしれないが、力の増大はより弱い競争相手に対する恐怖の増大につながっているようだ。これは外部の者にとっては非論理的に見えるような、外国への介入などの予防的行動を引き起こす可能性がある。

この新たな地政学の時代は、2022年にロシアがはるかに規模の小さい隣国ウクライナに全面侵攻したことで幕を開けたと言えるのだろう。そして「大国」思考への回帰はトランプ氏が大統領に復帰したことでまさに加速した。

まずは世界的な貿易戦争が始まり、トランプ氏はあらゆる貿易交渉の条件を設定するとの見通しを明らかにした。そしてトランプ政権の国家安全保障戦略が発表され、「勢力圏」という概念が復活した。

しかしながら、真の転換点は26年に入った時に訪れた。年明けから1カ月もたたないうちにトランプ氏は南米ベネズエラのマドゥロ大統領を拘束するために米軍を使ってベネズエラを襲撃し、イランの内紛への介入をほのめかし、デンマーク自治領グリーンランドの併合に向けた好戦的なキャンペーンを展開した。ただ、少なくとも現時点では事態は沈静化に向かっているようだ。

私たちが目にする現象を理解する一つの方法は、行動心理学の視点から地政学を考察することだ。カナダのトロント大のケイレブ・ポメロイ氏は23年から25年にかけて発表した2本の論文で、権力がビジネスリーダーの思考と行動に与える影響に関する研究を用いながら国際政策決定を分析した。

この研究は、無害なものから重大な結果をもたらすものまでの幅広い行動様式を特定した。

例えば権力を感じる人々は議論や交渉で最初に主張する傾向があり、これは彼らに優位性をもたらす。さらに同研究によると、こうした権力を感じる人々は先入観に陥りやすく、他者の意見を軽視する傾向もあり、意思決定時に重要な情報を無視する結果を招きかねない。

この最後の特徴は、企業や政府の上位階層になるにつれて問題が深刻化する。彼らが直面する課題は解決が困難になるからだ。アイゼンハワー元米大統領が語ったとされるように「米大統領に簡単な問題が来ることは決してない。解決が容易な問題は、既に誰かが解決している」からだ。

問題の複雑化と解決策に関するデータの不足により、企業幹部はノーベル経済学賞を受けた心理学者の故ダニエル・カーネマン氏が「システム1思考(ファスト思考)」と呼ぶ手法に依存しがちだ。これは熟考や深い分析ではなく、実践的で感情や経験に基づく迅速で直感的な意思決定だ。

システム1思考の大きな欠点の一つは、挑戦を受けることへの恐怖をしばしば増幅させる点だ。批判は当然ながら、私たちの生来の闘争と逃走の本能を刺激する。そして職場環境では、挑戦者から距離を置くことが不可能な場合が多く、批判をかわす余地がなく攻撃されているという認識を生み出す。

<あらゆる場所に亡霊>

ポメロイ氏の研究は、ビジネス界でのこれらの知見が外交関係にも応用可能だと主張する。調査と政府文書を用いた研究により、政治家が自国のことをより優位だと考えるほど、大小を問わず他国を恐れる傾向が強いことを示した。

例えばロシアの政策エリート層を対象にした2020年の調査で、回答者平均よりもロシアの力を強く認識している政治家は、米国や北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大の可能性だけでなく、ウクライナからもより強い脅威を感じていた。ウクライナをロシアに対する脅威と認識させる要因として、心理的・人口統計的な要因でこれほど影響力の大きいものは他になかった。

ポメロイ氏は米国と旧ソ連の冷戦時代の米国外交公電も分析した。米国の政治家や外交官のうち米国が世界での力が強いと考える人ほど、旧ソ連・中国・ベトナム戦争期の南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)を大きな脅威だと認識していたことを示した。

実際、力に対する認識が高まると、穏健派でさえ外交政策のタカ派に転じることがある。これは03年の米国によるイラク侵攻や、1979年の旧ソ連のアフガニスタン侵攻といった不運な軍事介入を説明する一助となるかもしれない。

もちろん、支配的な国がより弱い隣国に脅威を感じたからといって、その認識に基づいて行動するとは限らない。特にその国の制度が軽率な行動を抑制する場合はそうだ。さらに、権力の掌握が揺らいだと感じた国が他国を攻撃した例は歴史上多く存在する。

それでも、ポメロイ氏の研究は権力が政策エリート層の意思決定プロセスをゆがめる意外な方法を浮き彫りにしている。投資家がこの急速に変化する新たな地政学的状況を乗り切ろうとする際、この点を心に留めておくべきだろう。

(筆者はパンミュア・リベラムの投資ストラテジスト、ヨアヒム・クレメント氏です。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

免責事項:本サイトで提供する情報は教育・情報提供を目的としたものであり、金融・投資アドバイスとして解釈されるべきではありません。

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