
Andrew Osborn
[モスクワ 19日 ロイター] - ロシアは、トランプ米大統領がデンマーク自治領グリーンランドの獲得に動き、欧州との亀裂が広がるのを目の当たりにしてほくそ笑んでいる。ただ、トランプ氏の行動は北極圏での存在感を高めたいロシアに安全保障面で深刻な影響をもたらす可能性もはらんでいる。
グリーンランド問題を巡りロシア政府関係者からさまざまな発言が出ているが、トランプ氏への表だった批判は抑え気味だ。ロシアの伝統的な同盟国であるベネズエラやイランがトランプ氏から狙い撃ちされているとはいえ、ウクライナ戦争をロシア側に有利な条件に沿って確実に終結させるためにトランプ氏を味方につけておきたいと考えているためだ。
ロシアのペスコフ報道官は19日、「グリーンランド獲得問題を解決することでトランプ氏は間違いなく歴史に名を刻むだろうと考える国際的な専門家がいる。その名は米国ばかりか世界の歴史においても残る。専門家のこうした主張に同意せざるを得ない」と述べた。
<欧州の苦境にも言及>
ロシアの有力紙「モスコフスキー・コムソモレツ」は、米国によるグリーンランド購入を受け入れるまで一部欧州諸国からの輸入品に追加関税をかける方針をトランプ氏が示したことについて、欧州が「完全に途方に暮れる」様子を見るのは痛快だと書いた。
メドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)も「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(MAGA)=メイク・デンマーク・スモール・アゲイン(MDSA)=メイク・ヨーロッパ・プア・アゲイン(MEPA)。この考えをようやく理解できただろうか、愚か者たちよ」と述べた。
ウクライナ戦を巡る米国との協議に関与しているドミトリエフ大統領特別代表はソーシャルメディアへの投稿で欧州の指導者を嘲笑。「大西洋横断同盟の崩壊。やっとダボスで実際に議論する価値のある話題が出てきた」と書き込んだ。ドミトリエフ氏は今週、スイスのダボスで開催される世界経済フォーラム年次総会の期間中にウクライナ問題を巡り米国の特使と会談する予定。
ドミトリエフ氏は「プーチン氏はグリーンランドに関する米国の論理を理解している」とも投稿。米国のグリーンランドに対する構想には深い歴史的根があるとしたプーチン大統領の演説へのリンクを添えた。
ロシアの論評家は、トランプ氏の行動はロシアにとって長年の敵である北大西洋条約機構(NATO)に前例のない緊張をもたらし、欧州連合(EU)や英国に経済的・外交的な痛みを与え得ると指摘している。EUと英国はウクライナ問題をロシアの思い通りに進めるうえで障害とみなされている。
政府系のロシア新聞は、グリーンランドを巡る見解の相違がNATOの終焉を意味するのかと問いかけた。
元ロシア政府顧問のセルゲイ・マルコフ氏は「トランプ氏の敵のほぼ全てがロシアの敵でもある」のだから、ロシア政府はトランプ氏の野望を後押しすべきだと主張する。
<危うい綱渡り>
グリーンランド問題はロシアにこうした恩恵を及ぼす一方、トランプ氏の動きは、天然資源が豊富で戦略的にも重要な北極圏におけるロシアの野心にも影響を及ぼす可能性があるだけに、ロシアは微妙な立場に立たされている。
ロシアは、トランプ氏がグリーンランドを米国の管理下に置きたい理由の一つとしてロシアの脅威を挙げたことに反発しつつも、トランプ氏を直接批判することは避けた。
ロシア外務省は先週、西側諸国がロシアと中国をグリーンランドへの脅威だと非難し続けるのは受け入れられないとの認識を示した。
しかしロシアにとってはグリーンランドよりもウクライナの優先度が高い。グリーンランドには既に米国の軍事的プレゼンスが存在している。
ウクライナを資金・武器面で支援してきた国を巻き込んでグリーンランドを巡る大西洋横断同盟に亀裂が生じれば、ロシアにとって有利に働き、それが他の政策分野にも波及してウクライナ問題に焦点が当たりにくくなる可能性がある。
ロシアの論評家の間では、トランプ氏の行動は規則のない新たな世界秩序の到来を告げるもので、それはモスクワに利益をもたらすかもしれないとの見方も出ている。
一方、最近のベネズエラのマドゥロ大統領拘束を引き合いに出して、トランプ氏の行動の予測不可能性に警鐘を鳴らす声もある。
また米国は西半球での支配力を取り戻すと主張するトランプ氏は、他の国が独自の勢力圏を持つことに対して寛容な姿勢を示していないとも指摘されている。マルコフ氏は「ロシアが自らの勢力圏を持つことができるのは力によってのみだ」と述べた。