
Alessandro Parodi Tassilo Hummel
[8日 ロイター] - パリからニューヨークまで、百貨店は厳選した買い物体験に注力しつつある。例えばアイススケートショーやワインの試飲、建築ツアーなどで、客足を取り戻そうとしている。
しかもこうした取り組みを進める切迫感は増している。米サックス・グローバルが抱える問題が大きくなり、高級ブランドの直営店や急成長する電子商取引(EC)プラットフォームとの競争が激化する中で、百貨店業界が存在感を維持する難しさが浮き彫りにされたからだ。
複数のアナリストの話では、この流れは単なる表面的なものではなく、消費者の習慣の変化や来店客減少という重圧にさらされる業界の構造的な変動を反映している。
ナイト・フランクの小売投資責任者、ベンジャミン・セバン氏は「現在の市場環境では、高級品を売るには卓越した体験が必要であり、それは卓越した空間でこそ最も効果を発揮する」と指摘した。
<没入体験が市場けん引>
カタール資本のプランタンがニューヨークのマンハッタンに新規開設した店舗は、フランスの有名建築物を紙で再現し、パリ生まれの歴史を想起させる演出を施している。また限定商品やワインの試飲会も開催する。
プランタン・アメリカのティエリー・プレボ最高経営責任者(CEO)は「ここは単に買い物する場所ではなく、滞在してくつろぎ、新しい豪華なライフスタイルに没入するための空間だ」とロイターに語り、店内の高級レストラン、シャンパンバー、デザイナーとのトークイベントといった仕掛けを強調した。
同社の動きを裏付けるのは、コンサルティング会社ベインの調査結果だ。それによると2023年から25年にかけて高級品市場の成長をけん引したのは、各種おもてなしのサービスや高級ダイニングといった体験型セクターだった。
だがそれで成功は保証されるわけではない。
LVMHLVMH.PAは、パリのリボリ通りに面した百貨店ラ・サマリテーヌのアールヌーボー様式の建物改装に約7億5000万ユーロを投じた。だが21年の再オープン後もLVMHが運営するパリのル・ボン・マルシェ店と比べて苦戦が続き、25年にこの2店舗は再編の一環として統合された。
<サックスが鳴らす警鐘>
サックス・グローバルが25年10月に発表した第2・四半期売上高は前年同期比で13%減少して16億ドルとなり、調整後コア損益は7700万ドルの赤字だった。
さらに同社は負債に対する利払いが実行できなかったことを受け、マーク・メトリック氏がCEOを退任し、破産申請を準備中とも報じられた。
アナリストによるとこうした事態は、在庫管理の失敗と買収関連の債務増大が主因とされる。それでもサックスの苦境からは、百貨店が、値頃感のある商品をそろえる小売や、独自の価値を打ち出す高級ブランドの直営店に押されているという、より根深い課題の存在がうかがえるという。
<コンセッションモデルと協業>
バーンスタインのアナリストチームは、米国の百貨店はコンセッション(ブランド直営の売り場)を多く取り入れるモデルに移行するべきだと提言する。つまり複数ブランドの販売員を提供しつつ、ブランド側に運営や在庫管理を任せるやり方だ。
ミラノにあるイタリア最古のショッピングアーケート、ガッレリア・ビットリオ・エマヌエーレ2世は1つの手本を示している。ミラノ市は入札方式で一等地の店舗スペースを貸し出し、その価値は10年で4倍に跳ね上がった。
バーンスタインのアナリスト、ルカ・ソルカ氏は「マルチブランドの小売事業者は自らの『発掘』と『発見』の使命に立ち返る必要がある」と述べた。
百貨店の中には、パートナーシップを試験的に採用している向きもある。
25年11月には、一部の競合相手や消費者から批判されたものの、パリのBHVが中国発のECブランド「Shein(シーイン)」の初の実店舗を開設した。
ナイト・フランクのセバン氏は「百貨店にとって正しい答えは、自社のアイデンティティーを持つオンラインサービスを構築することだ」と説明した。
<厳しい見通し>
ベインが25年11月公表した見通しでは、世界全体の百貨店売上高は同年を通じて4-6%減少して30年までほとんど回復が期待できず、高級品セクター全体の予想成長ペースに追いつけない。
米百貨店メーシーズM.Nは25年12月、生活必需品以外の支出が縮小したため年末商戦を含む四半期の利益が想定を下回ると警告した。
ロンドンのハロッズは25年10月に、24年の基調的営業利益が17%落ち込んだと明らかにした。
対照的にEC企業は好調だ。
豪華体験を提供するラックスエクスペリエンス傘下のマイテレサは、11月に発表した四半期のコア利益が2倍以上に膨らんだ。同社はサックスと似たような商品を取り扱うが、400ドル超の注文は送料が無料という特典を設けている。