
Streisand Neto
[ロンドン 19日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領は、サッカー最大の祭典に足跡を残すことになる。第23回FIFAワールドカップ(W杯)は2026年6月から米国、カナダ、メキシコで開催され、全104試合のうち78試合が米国のスタジアムで開催される。国際サッカー連盟(FIFA)はチケット販売やホスピタリティ・パッケージから異例に高い収入を見込んでいるが、一方で外国人のファンにとっては居心地の悪い経験になるかもしれない。
4年に1度W杯を運営し、収益をサッカー業界に還元しているFIFAは今回、記録的な成功を見込んでいる。FIFAによれば、出場チームが従来の32から48に増えることで今大会の収入は89億ドルに達する見通しだ。これは、リオネル・メッシ選手が率いたアルゼンチン代表がPK戦で優勝した2022年カタール大会の約50%増となる。FIFAは2026年大会の収入の3分の1をホスピタリティ・パッケージとチケット販売で稼ぐと予想。その額は30億ドルと、カタール大会の3倍超に上る計算だ。
ジャンニ・インファンティーノ会長が、試合当日の収益目標を達成できるともくろむ理由はいくつもある。ニュージャージー州のメットライフ・スタジアムなど米国内の11カ所の会場は収容人数が6万人を超えるが、カタールで8会場のうちその規模に達したのは2会場だけだった。米国のスタジアムは一般に、収益性の高い法人向けホスピタリティ・パッケージを提供する設備も整っている。加えて、規模が大きく比較的裕福な地元の観客層がいることの恩恵は非常に大きい。インファンティーノ会長は11月下旬、すでに先行販売で200万枚のチケットを販売しており「米国、カナダ、メキシコのファンが最も多く購入した」と述べていた。
それでも、自らの首を絞める「オウンゴール」のような展開が起きる可能性は容易に想像できる。
米スポーツ専門局ESPNは開催日程とスタジアムの収容人数に基づき、総計710万席を埋める必要があると見積もった。会場に空席が目立つという気まずい状況を生まないための道のりは、まだ遠い。
気がかりなのは、米国の国境管理政策が厳しくなれば、サッカーファンがチケットを買ったり会場に足を運んだりするのを手控える恐れがある点だ。トランプ氏は6月、W杯出場を決めているイランとハイチを含む12の国や地域を対象に渡航禁止令を出し、状況はさらに複雑になった。ロイターは当時、ホワイトハウスがさらに36の国と地域を対象に追加する可能性があると報じた。実際には実現していないが、先が読めないこの状況は、誰にとっても良い影響を与えない。
チケットを持っているのに米国に入国できない場合、主催者はどう対応するのか、ファンは疑問を抱くかもしれない。ただ事情に詳しい関係者によれば、FIFAはファンの入国を円滑にするため、米国当局と協力してビザ対応に取り組んでいるという。
たとえW杯が全てのチケットとホスピタリティ・パッケージを完売した状態で開幕したとしても、大会終了後にファンから反発や不満が噴出するリスクは残る。交通に詳しいブロガーのヘイデン・クラーキン氏による分析では、米国の主要開催都市における鉄道やバスの整備は不十分だという。
トランプ氏は、安全でないとみなした都市から開催地を移す可能性にも言及しており、政治的な判断で試合日程が直前に変更され、観客に影響が及ぶ恐れがある。
インファンティーノ会長はトランプ氏と比較的近い関係にあるため、混乱を最小限に抑えることは可能だと踏んでいるかもしれない。その代償として、トランプ氏がW杯で引き起こす問題はFIFAが尻ぬぐいを迫られることになる。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)