
Krystal Hu Kenrick Cai Stephen Nellis
[17日 ロイター] - 米アルファベットGOOGL.O傘下のグーグルは、自社の人工知能(AI)半導体を、世界で最も広く利用されている深層学習プラットフォーム「パイトーチ」上でより効率的に動作させるための新たな取り組みを進めている。AIコンピューティング市場で長年エヌビディアNVDA.Oが築いてきたソフトウエア環境を含めた支配的地位を弱める狙いがある。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。
パイトーチはメタ・プラットフォームズMETA.Oが開発したオープンソースの深層学習プラットフォームで、AIモデル開発者の間で最も使われているツールの1つ。シリコンバレーでは、エヌビディアやAMDAMD.O、グーグルの半導体が実行するコードを開発者が一行残らず自分で書くことは滅多にない。
グーグルの取り組みは「トーチTPU」と呼ばれる。独自開発した機械学習特化型プロセッサ「TPU」を、現在市場を席巻しているエヌビディアのGPU(画像処理装置)に代わる有力な選択肢にしようという野心的な計画の一環だ。
アルファベットは長らくTPUの大部分を社内利用に確保していた。しかしグーグルのクラウドコンピューティング部門がTPU販売担当グループの監督権獲得に成功した2022年に状況が一変し、グーグルクラウドへのTPUの配分が大きく増加した。その後顧客のAIに対する関心が高まるとともに、グーグルはTPUを増産、TPUの販売は、グーグルのクラウド収益にとって重要な成長エンジンになっている。
ただTPUというハードウエアだけでは普及加速に十分でない。そこでトーチTPUが打ち出された。既にパイトーチを利用して技術インフラを構築している顧客に対し、TPUを完全に互換化し、開発者にとって使いやすくすることで、普及の足かせになってきた問題を取り除く。TPUを採用したいが、ソフトウエアが妨げと見なす企業からの需要が高まり、トーチTPUの戦略的重要性が高められたという。
エヌビディアも、パイトーチを使って開発されたソフトが自社半導体上でできるだけ効率的かつ高速に動くよう、何年も前から取り組んできた。同社の支配力は、ハードだけでなく「CUDA」と呼ばれるGPUの性能を最大に引き出すソフトウエアエコシステムによって強化されてきた。CUDAは、パイトーチに深く組み込まれ、企業が大規模なAIモデルを学習させ、実行する上で事実上の標準手法となっている。
グーグルは内部の多数のソフト開発者に、ジャックスと呼ばれる別のコードフレームワークを使わせており、TPUはXLAというツールでそのコードを効率的に動作させている。
トーチTPUが成功すれば、エヌビディアのGPUに代わる選択肢を求める企業が乗り換えるコストを大きく削減する可能性がある。
グーグルの広報担当者はトーチTPUの詳細についてコメントを拒否したが、ロイターにこのプロジェクトが顧客に選択肢を提供すると説明。「当社のTPU、GPU双方に対する需要を加速させ、大規模になるだろう。われわれが重視するのは開発者がどのようなハードウエアを選ぶかにかかわらず、開発者に必要な柔軟性とスケールを与えることだ」と述べた。