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〔インサイト〕企業に広がる人手の再評価、AI導入も「今すぐ」の成果に焦り

ロイターDec 17, 2025 4:33 AM

Deepa Seetharaman Supantha Mukherjee Krystal Hu

- ワインコレクションアプリ「セラー・トラッカー」は昨春、ユーザーの味覚に基づいて率直にワインを勧める人工知能(AI)ソムリエを開発した。問題はそのチャットボットが優しすぎたことだ。

「『そのワインはあなたの好みに合う可能性が低い』と率直に言わず、とても丁寧な言い方をする」とエリック・レビーン最高経営責任者(CEO)は語った。この機能を立ち上げるまで、チャットボットを調整する試行錯誤に6週間を要した。

チャットGPTが3年前に爆発的な人気を得てから、大企業から中小企業まで生成AIを導入し、できるだけ数多くの製品に組み込もうと飛びついた。しかし、企業幹部やアドバイザーの話、最近の7つの経営者・従業員調査の結果によると、ほとんどの企業は今までのところ、AI投資から十分な利益を得るのに苦戦している。

調査会社フォレスター・リサーチが第2・四半期に実施した1576人の経営幹部を対象とした調査で、AIによって利益率が過去1年間で改善したと答えたのはわずか15%だった。コンサルティング会社BCGが5月から7月中旬にかけて調査した1250人の経営幹部のうち、AIに広範な価値を見いだしたと答えたのはたった5%にとどまった。

経営幹部らは生成AIが最終的に自社の事業を変革するとまだ信じているが、どの程度早く実現するのかどうかについては考え直しているようだ。フォレスターは、企業が26年に計画したAI支出の約25%を1年間延期すると予測している。

オープンAI、アンソロピック、グーグルなどのAI企業はいずれも、来年に向けて法人顧客の獲得に力を入れている。オープンAIのサム・アルトマンCEOはニューヨークで開かれたメディア編集者との昼食会で、企業向けAIシステムの開発は1000億ドル規模の市場になり得ると語った。

こうした動きはチップからデータセンター、エネルギー源に至るまで、テクノロジー分野への前例のない投資を背景として進んでいる。

これらの投資が実を結ぶかどうかは、企業がどのようにAIを活用して収益を増やし、利益率を高め、技術革新を加速できるかどうかにかかっているだろう。それができなければ、インフラ構築の過熱ぶりは2000年代初頭のITバブル崩壊を思い出させるような破局を引き起こす可能性があるだろう、と一部の専門家は指摘する。

<「簡単な」ボタン>

世界中の企業はチャットGPTの登場後すぐ、生成AIを取り入れる方法を模索するための対策本部を立ち上げた。生成AIはテキスト入力を通じてエッセイ、ソフトウエアコード、画像などのオリジナルコンテンツを作成できるAIの一種だ。

AIモデルのよく知られた問題の1つは、ユーザーを喜ばせようとする傾向だ。このバイアスは「おべっか」と称され、ユーザーがさらに会話するよう促す一方、より適切な助言をするモデルの能力を損なう可能性がある。

冒頭のアプリ「セラー・トラッカー」は、オープンAIの技術を基盤にしたワイン推薦機能でこうした問題に直面したとレビーン氏は語った。AIモデルがユーザーに対して「批判的になり、『あなたが好まないかもしれないワインがある』と提案するように相当工夫した」と言う。

解決策の一部は、モデルにノーと言ってよい、と許可を与える仕組みを設計することだった。

企業はまた、AIの一貫性のなさにも苦慮している。

北米の鉄道サービス企業「キャンドゥ・レール・アンド・ターミナルズ」のゼネラルマネージャー、ジェレミー・ニールセン氏によると、同社では最近、従業員が社内の安全報告書や研修資料を学習するためのAIチャットボットを試験したという。

しかし、キャンドゥは意外な障害に直面した。モデルが業界の安全基準を定めた約100ページの文書の「カナダ鉄道運行規則」を一貫して正確に要約できなかったのだ。

モデルはある場合は規則を忘れたり誤解したり、また別の場合は完全にでっち上げたりした。AI研究者によると、モデルはしばしば、長い文書の中央部分を記憶するのが苦手だという。

キャンドゥは現在プロジェクトを中止し、他のアイデアをテストしているという。同社はAI製品の開発に対して、これまでに30万ドルを費やしている。

「私たちはみんな簡単なボタンだと思っていた」とニールセン氏は述べた。「でも、そうはならなかった」

<人間が再登板>

コールセンターやカスタマーサービスはAIによって大きく変わるはずだったが、企業はすぐにチャットボットに委ねられる人間とのやり取りに限界があると学んだ。

スウェーデンの決済企業クラーナは2024年初め、常勤のカスタマーサービス担当者700人分の仕事を代替できるとするオープンAI搭載のカスタマーサービスエージェントを導入した。

しかし、セバスチャン・シェミアトコウスキーCEOは今年、人間と話すのを好む顧客もいると認め、その方針を修正せざるを得なかった。

シェミアトコウスキー氏によると、AIは単純なタスクでは信頼性が高く、現在は約850人分の業務をこなせるものの、より複雑な問題はすぐに人間の担当者に引き継がれるという。

カスタマーサービス・ソフトウエア企業「ゼンデスク」の製品・エンジニアリング・AI部門プレジデント、シャシ・ウパディヤイ氏によると、AIは文章作成、コーディング、チャットの3分野で優れているという。ゼンデスクの顧客は、生成AIを使ってカスタマーサポートの50ー80%を処理している。ただ生成AIが全てこなせるという考えは「誇張されすぎている」と述べた。

<「ギザギザの境界線」>

大規模言語モデル(LLM)は数学やコーディングといった複雑なタスクを急速に処理しているが、比較的ささいなタスクで失敗する可能性がまだある。研究者たちはこの能力の矛盾をAIの「ギザギザの境界線」と呼んでいる。

「数学はフェラーリ並みの速さなのに、カレンダーの予定入力はロバのように遅い」と、人気ベンチマークツール「エルエムアリーナ」のCEO兼共同創業者、アナスタシオス・アンジェロプロス氏は語った。

多くの金融企業はさまざまなフォーマットで構成された幅広い情報源から集めたデータに頼っている。こうしたフォーマットの違いがAIツールに「存在しないパターンを読み取らせる」事態を引き起こすかもしれないと、コンサルティング会社アルファ・フィナンシャル・マーケッツ・コンサルティングのディレクター、クラーク・シェーファー氏は述べた。

企業は現在、AIを活用するために自社のデータを再フォーマットするという、費用も時間もかかる可能性を伴う複雑な作業を検討している。

<より手厚い支援を>

オープンAIは企業向けの新製品を開発中で、顧客と直接協力してオープンAIの技術を使い特定の問題を解決するための社内チームを最近設立したと広報担当者は述べた。

「失敗が見られるのは、あまりに大きな課題に飛び込む場合だ。数十億ドル規模の問題だと分かるには数年かかる」と、オープンAIの収益責任者アシュリー・クレイマー氏は11月のインタビューで語った。

具体的には、オープンAIは企業と協力しAIが「最初は低コストで高いインパクトを発揮する」ことができる領域を見つけるよう注力しているとクレイマー氏は述べた。

ライバル企業のアンソロピックは収益の80%を法人顧客から得ており、企業に常駐する「応用AI」専門家を採用している。

同社のプロダクト責任者、マイク・クリーガー氏は今年初めのインタビューで、AI企業が成功するためには自らを「単なる技術導入社ではなく、むしろパートナーであり教育者」だと考える必要があると語った。

オープンAIの元社員が創業した数多いスタートアップなど、金融サービスや法務のような特定分野向けのAIツールを開発するスタートアップが増えている。こうした企業の創業者たちは、企業がチャットGPTのような汎用ツールや消費者向けツールよりも、専門特化型のモデルからより大きな恩恵を受けるだろうと述べた。

サンフランシスコを拠点とするAIアプリケーションスタートアップ「ライター」も、この戦略を採用している。バンガードやプルデンシャルのような大企業の金融・マーケティングチーム向けにAIエージェントを現在構築しており、エンジニアが顧客との通話に直接参加し作業の流れを理解しながらエージェントを共同開発している。

「企業はAIツールを実際に役立てるために、より多くの支援を必要としている」と、ライターのメイ・ハビブCEOは語った。

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