
Gabriel Rubin
[ワシントン 4日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米連邦準備理事会(FRB)の次期議長最有力候補に躍り出た米国家経済会議のケビン・ハセット委員長は、就任するために最低限の条件を満たした候補者だ。トランプ大統領が強く望む金融緩和路線に近い立場にあるにもかかわらず、ハセット氏はホワイトハウスの経済学者であり、伝統的な経済学を身につけてきたという経歴を持っている。ハセット氏の役割は自らの信頼性を活用して政権が長年求めてきた利下げを実現することだ。しかしハセット氏といえども、政策決定で持つ票はたった1票に過ぎない。FRB内の同僚の独立性を踏みにじれば、金融市場を安定させている制度的な正統性が崩壊するだろう。さらに、難解な経済データに直面しながら同僚を説得するのは容易でないと思われる。
ハセット氏の主張は簡潔だ。つまり利下げによって成長を促進する一方で、インフレを懸念する債券投資家に自らの十分な分析結果を納得させる。ハセット氏の経歴は経済学博士号、FRBの勤務経験、ブッシュ大統領(父)とトランプ大統領に仕えた実績までおよぶ。議長職に意欲を示すハセット氏は、米10年債利回りが11月末に一時低下したという最近の債券市場の動きについて、自身がFRB議長候補の最有力と報じられたためだとしている。
しかし現実はもっと複雑だ。ハセット氏は確かに、2017年に81対16という圧倒的多数で上院から大統領経済諮問委員会(CEA)委員長の指名承認を得られた実績がある。こうした事情から、ハセット氏はトランプ氏がこれまで理事に指名したジュディ・シェルトン氏やスティーブン・ムーア氏が承認を得られず撤退したことに比べれば、より強力な候補者となっている。しかし、ハセット氏がパウエル議長の後任として26年5月に就任すれば、インフレ抑制を使命とする独立した政策担当者たちと議論しなければならない。FRBが重視するインフレ指標は、トランプ氏が「相互関税」を発表した4月時点の2.3%から2.7%に上昇した。連邦公開市場委員会(FOMC)の政策決定メンバー12人のうち少なくとも5人は、インフレ圧力を理由に追加利下げに慎重であるべきだと警告している。
投資家は現在、ハセット氏が大幅な利下げをできるかどうか懐疑的にみているように思われる。CMEのフェドウオッチによると、今年あと1回利下げするとして、26年はわずか2回の利下げにとどまるとの予想が先物市場の多数派だ。
もし最高裁が判決でトランプ氏がFRB理事を自由に解任できるとの見解を示せば、ハセット氏の仕事はもっと容易になるかもしれない。しかし、もしハセット氏の議長指名がFRBの独立性を守ろうとする人々に対する和解の申し入れを意図したのだったなら、こうした見解はその目的を完全に損なうだろう。ベセント財務長官はニューヨーク・タイムズ主催の会議で、FRBの議長がだれであっても「最終的には1票に過ぎない」と述べており、こうした現実を示唆しているように思われる。そうすると、ハセット氏は神経質な市場と執拗な大統領の板挟みになるリスクがある。
●背景となるニュース
*トランプ大統領は2日、次期FRB議長の候補者を1人に絞り、国家経済会議のケビン・ハセット委員長を「有力候補」だと名指しした。トランプ氏は26年初めに指名を発表する予定。パウエル現議長の任期は26年5月に終了する。nL6N3X812M
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)