
[アムステルダム 29日 ロイター] - オランダの半導体企業ネクスペリアを巡る同国と中国の対立が、世界の自動車メーカーに危機的状況を招き、生産を脅かし、サプライチェーン(供給網)のリスクを露呈した。
ネクスペリアからその中国親会社である聞泰科技(ウィングテック)600745.SSに技術が移転するのではないかとの懸念が、ニュースの見出しを飾った。
<ネクスペリアとは何か>
オランダに拠点を置くネクスペリアは、総合電機大手フィリップス・エレクトロニクスの旧半導体製造部門から成長した企業だ。自動車や家電製品に使用される安価で基礎的なコンピューター用チップを年間1100億個以上、大量生産している。
ネクスペリアはドイツと英国でシリコンウエハーを製造し、中国その他のアジア工場に送って個々のチップにスライスし、パッケージングしている。2019年に中国の電子機器メーカー、ウィングテックに36億ドルで買収された。
ネクスペリアの昨年の売上高は20億ドルだった。
<対立の全容>
米中技術競争が激化する中、ネクスペリアを中国企業が所有していることは近年、論争の的となってきた。
ウィングテックは2024年に米国のブラックリストに掲載された。今年施行された米国の新規制では、子会社のネクスペリアも適用除外とならない限りブラックリスト入りする。
オランダ政府は9月30日、ネクスペリアの技術もしくは事業の中国移転を阻止するとして介入した。オランダの裁判所も、経営上の不正の理由に張学政氏のネクスペリアCEO職を停止した。
これに対抗して中国政府は、ネクスペリア製品の中国からの輸出を阻止。同社は自動車メーカーに対し、供給が保証できなくなったと通告した。
<なぜこれらの半導体が重要なのか>
ネクスペリアはトランジスタやダイオードといった基本的な電力制御チップを製造している。価格はわずか数セントだが、電気を使うほぼ全ての機器に必要とされる。
自動車では、バッテリーとモーターの接続、ライトやセンサー、ブレーキシステム、エアバッグ制御装置、エンターテインメントシステム、電動ウィンドウなどに使用される。
<代替サプライヤーは存在するか>
自動車メーカーは通常、ある程度の在庫と、代替となるサプライヤーを確保しているが、一夜にして切り替えられるものではない。
ネクスペリアは膨大な数量を生産しているため、代替サプライヤーを素早く見つけるのは困難だ。
自動車に使用される全てのチップは厳しい試験を通過する必要があり、新規サプライヤーの適格審査には数カ月を要する。
いわゆる「ディスクリート」チップの上位10メーカーにはネクスペリアの他、インフィニオンIFXGn.DE、オンセミON.O、STマイクロエレクトロニクスSTMPA.PA、富士電機、ルネサス6723.Tが含まれる。
<自動車メーカーとサプライヤーへの影響>
自動車メーカーは代替サプライヤーを世界中で探している。
日産自動車7201.T、メルセデス・ベンツMBGn.DE、ゼネラル・モーターズ(GM)GM.Nは供給不足の深刻化について警鐘を鳴らしている。またドイツの自動車部品サプライヤー、ボッシュは、労使紛争が早期に解決されない場合、ザルツギッター工場で従業員の一時帰休を準備している。
ホンダ7267.Tは28日にメキシコ工場の生産を停止し、米国とカナダでは既に生産調整を開始している。
<問題解決の方法は>
オランダ経済省は今週、中国と協議中であり、危機解決に向けた合意を期待していると表明したが、その時期は示していない。
この問題は、今週のトランプ米大統領と中国の習近平国家主席との会談で取り上げられる可能性がある。
ネクスペリアは、輸出規制について米中両国の政府と接触しているが、ウィングテックは「完全な支配権と所有権」を回復することによってのみ、この問題は解決できると表明している。
膠着状態が長引けば長引くほど、ネクスペリアの顧客が他のサプライヤーに乗り換える可能性は高くなる。あるいは、すでに始まっているように、ネクスペリアが欧州事業と中国事業に分割される可能性も高まる。