Una Galani Shritama Bose
[香港/ムンバイ 22日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米企業の一部が卓越している要因の一つは、世界で最も優秀な人材を雇用できることだ。ところがトランプ米大統領はこのほど、高度な専門技能を持つ人向けの就労ビザ「H-1B」の新規申請に10万ドルの手数料を課すことにした。アマゾン・ドット・コムAMZN.O、マイクロソフトMSFT.O、メタ・プラットフォームズMETA.O、アップルAAPL.Oは高度な技術を持つ優秀な労働者を米国に呼び寄せるのにリスクを抱えたことになる。しかし企業がそのリスクに対応するための十分な抜け穴を、トランプ氏自身が実は作ってしまったのだ。
H─1Bビザ問題は、トランプ政権が不法移民排斥の取り組みで新たな戦線を形成したことを示すが、意外なことではない。H─1Bを巡っては、米国で事業展開するインドのIT(情報技術)アウトソーシング企業などが米国人を雇用する代わり外国人技術者を安く雇う手段だという非難が以前からあった。ただ状況は変わり始めている。タタ・コンサルタンシー・サービシズTCS.NSは、今年のH─1B取得数が5505人と2位だが、2021年のピーク時の半分にとどまる。H─1B取得数の71%はインド人だが、ビザ取得を支援した企業上位10社の大半は米国企業だ。
高額な手数料は、ホワイトハウスが週末に急きょ、新規申請時に適用され既存のビザには適用されないと説明したため、金銭面の短期的な影響は限定的だろう。仮に遡及適用されたとしても、例えばJPモルガンJPM.Nなら一時的なコストは通期利益の0.4%にとどまる。TCSなら最大10%だろう。3年から5年の就労期間でならすと、10万ドルという手数料は優秀な人材を採用するためのコストとして許容範囲だ。
今回のトランプ大統領の命令に企業はどのように対応するか。主に2種類の方法が考えられる。1つは、米国外に業務を移転する「オフショアリング」を可能な限り進めることだ。政権がアウトソーシングの支払いに課税しようとしなければ、インド、フィリピン、メキシコがその恩恵を受ける可能性がある。企業がプロジェクトを円滑に遂行するためには、近くで連携し合える人材を最低限確保する必要があるが、特定の業務を行うのに人材がどこにいるべきかという議論は新型コロナ禍の時に崩れ、オフショアリングのうねりが起きた。
2つ目は、人工知能(AI)の積極的な導入だ。あるプロジェクトでH─1Bビザ保有者10人を使っていた場合、人員を5人にして、不足分をAIの最新技術で補えるか試みると予想される。これは、失業率を下げるために、理系の米国人の雇用を促すという政権の意図とは正反対の結果となる。
トランプ氏はこの数年、H─1Bビザを巡り、自身の技術顧問に肩入れしたかと思えば、米国第一主義のMAGA支持者の側につくなど、ぶれが見られた。今回の大統領令に多くの抜け穴がひそんでいる理由は、彼自身の不確実性にあるかもしれない。大統領は国土安全保障省長官に、国益に適うのであれば手数料を免除することを許可した。規制は延長されない限り、12カ月間しか適用されない。
とはいえ、重大な脅威はなお存在する。米国はこれまで常に国内と海外両方の人材に依存してきた。「反移民」措置が恒久的なものになれば、大きな代償を払うことになる。
●背景となるニュース
*米大統領令、高度専門職ビザに10万ドル申請料 ハイテク企業に打撃nL6N3V700E
*米高度専門職ビザの新手数料は1回限り、既存ビザは対象外と大統領報道官nL6N3V7052
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)