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〔アングル〕トランプ氏国賓招待で巨額投資確保、賭けに勝った英首相

ロイターSep 19, 2025 2:46 AM

Andrew MacAskill Paul Sandle Muvija M

- スターマー英首相は予測不能なトランプ米大統領を懐柔するため、国賓として再度招待するという異例の極めてリスクの高い賭に出て、結果として米企業などから史上最高規模の対英投資を確保し、成果を上げることに成功した。

トランプ氏は歴史的訪英に合わせ、米企業が英国のハイテク、金融、エネルギー分野に計1500億ポンド(2030億ドル)を投資すると発表した。nL6N3V50V8

スターマー氏がトランプ氏に歩み寄ったことが正しかったかどうかを巡り世論は割れていた。しかしスターマー氏はトランプ氏とのあからさまな衝突を回避することに成功。首相として数週間にわたり難局に直面した後だけに、投資案件の合意は大きな後押しとなった。

これまでも英王室が主催する国賓招待は貿易協定や文化交流の発表に利用されてきたが、ディール志向の強いトランプ氏は今回、富豪や経済界のリーダーを伴って英国入りした。

<AI競争で米と協調>

トランプ氏の訪英中に米英両国政府は米企業による対英投資案件を次々と発表。米資産運用大手ブラックストーンは10年間で1000億ポンドの拠出を約束し、米マイクロソフトMSFT.Oは220億ポンドの投資計画を公表した。

トランプ氏は米国が人工知能(AI)競争で勝つことを望んでいる。また、この分野における唯一の実質的競合相手が中国であることから、英国はデータセンターやスーパーコンピューター構築を確実に進めるために同盟国である米国と組む道を選んだ。

マイクロソフトのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)など米ハイテク企業トップとトランプ氏は自分たちの考えを率直に伝え、英国が米国に頼ることの重要性を強調。トランプ氏は記者会見で「われわれは英国が地球上で最高のAI、ハードウエア、ソフトウエアの安全で信頼できる供給を得られるように尽力しており、実際にそれを提供する」と述べた。

投資はAI分野におけるインフラ構築、能力、資本面の米国の強みと、英国の大学、スタートアップ、大企業が生み出す革新性や創造性を組み合わせることを狙いとしている。

しかしこうした合意が全面的な支持を得ているわけではなく、アナリストや弁護士の間には英国はシリコンバレーの単なる一拠点に過ぎない存在になると危惧する声もある。

元英副首相で、退任後に米メタで政策責任者を務めたニック・クレッグ氏は今回の合意について、英国は「アンクルサムの上着の裾につかまっているような」状態と表現。法律事務所シュースミスのパートナー、アレックス・カークホープも、英国のAIが米国のインフラ、ソフトウエア、データセンター上に構築されるなら、「政治面でわれわれの影響力は明らかに低下する」と述べた。

米国に接近しすぎれば、英国にとって最大の貿易相手で、経済成長にとって重要な欧州連合(EU)への輸出能力が制限されるリスクもある。

さらに、スターマー氏のアプローチに批判的な向きは、トランプ氏は母親が英国生まれであることもあって英国に善意を示しているように見えるが、英国がトランプ氏の意向に左右される立場に置かれていることに変わりはないと主張している。

英国貿易政策オブザーバトリーのピーター・ホームズ氏は「英国は悪い状況の中で最善を尽くしたが、実際の成果は英国の戦術や戦略ではなく、トランプ氏のうつろいやすい考え次第だ」と指摘した。

<トランプ氏と強固な関係構築>

一方、自由主義的なテクノクラートで元人権弁護士のスターマー氏は他国の指導者と異なり、トランプ氏の扱いが巧みであることを証明して見せた。公の場でトランプ氏を持ち上げ、礼節を保ちつつ、切り札である王室の招待を活用した。

バーミンガム大学のデイビッド・ダン教授(国際政治学)は、トランプ氏が閣僚の上級メンバーや大手企業のトップを引き連れて訪英したことは大きなチャンスになったと述べた。ブラジルやインドなどの国は十分な「忠誠心」を示さなかったために厳しい関税を課されたと指摘。「トランプ氏は中世の王のように振る舞う気まぐれな人物だ。英国は静かで慎重な外交を通じて、かなり有利な扱いを得ることに成功した」と評価した。

しかしスターマー氏の影響力には限界もある。英国の鉄鋼業界の対米輸出関税は25%と他国の50%より低いが、スターマー氏は今回、この税率をさらに引き下げることはできなかった。また両首脳はパレスチナ国家の承認については意見が一致せず、ロシアへの対応でもほとんど進展はなかった。nL6N3V50UM

それでも両者は良好な関係を保ったまま会談を終えた。トランプ氏は、米英は常に団結するだろうと発言。「首相、あなたは素晴らしい仕事をしている。感謝したい」とスターマー氏に謝意を示した。

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