Annie Banerji
[ニューデリー 9日 トムソン・ロイター財団] - インドで最近、金銭のやり取りが発生するオンラインゲームが禁止されたことを受け、こうしたゲームに依存する人々が規制外のアプリや海外のプラットフォームに流れ、新たな経済的・社会的リスクが生じる可能性があると、オンラインで仮想スポーツチームの成績を競う「ファンタジースポーツ」ゲームの専門家らは警告している。
モディ政権は8月末、経済的損失と依存リスクを理由に、オンライン上でユーザーが入金し、賞金を得ることが可能な「リアルマネーゲーム」の禁止を発表。クリケットのファンタジースポーツゲームや、カードゲームのラミーやポーカーといった多くの有料アプリが閉鎖された。
「中毒性があるため、多くのユーザーが海外のプラットフォームに移り、ドーパミンを放出できる別の手段を見つけることになるだろう」とムンバイを拠点とするファンタジークリケットのアナリスト、ヴィレン・ヘムラジャニ氏はトムソン・ロイター財団に語った。
ヘムラジャニ氏は「現在は全てが規制外のため、不正や詐欺につながる場合もある。ユーザーが何かで勝っても、金が戻ってくる保証はない」と述べ、さまざまなアプリがショッピングサイトを装い、違法にコインやトークンを提供している例を挙げた。
2025年の「オンラインゲームの促進と規制に関する法案」は、米ニューヨークのタイガー・グローバルや、印ベンガルールのピークXVパートナーズといったベンチャーキャピタル企業が支える業界に衝撃をもたらした。同業界の市場価値は29年までに36億ドル(約5300億円)に達すると予想されていた。
インドのゲームプラットフォーム「モバイルプレミアリーグ(MPL)」や競合する「ドリーム11」は近年、ファンタジークリケットゲームのユーザーに対し、賞金を提供することで人気を集めていた。プレイヤーは実在する選手で仮想の「チーム」を編成し、選手の実際の試合でのパフォーマンスに基づいてポイントを獲得するという仕組みだ。
両アプリとも禁止令の施行後、賞金が発生するゲームを中止した。
業界側はこれらのゲームについて、スキルに基づいておりギャンブルではないとの見方を示した。ギャンブルは同国で既に厳しい規制下にある。
<苦難>
ファンタジースポーツや、その他のリアルマネーゲームアプリに批判的な人々は、結果をコントロールできない試合にお金を賭けることになるとして、こうしたゲームは本質的にはギャンブルであると指摘する。
モディ政権は、金銭のやり取りを伴うゲームが依存症を引き起こすとして繰り返し不満を示し、「社会悪」に取り組む義務があると主張していた。
「貯蓄を失った家庭があり、若者は依存症に陥っている。ゲームに起因する経済的苦痛により自殺したという痛ましい事例もある」とインド政府は新法に関連する声明で述べた。
世界保健機関(WHO)はゲーム依存症について、制御力を失い、日常生活よりもゲームを優先し、有害な状態でもゲームをし続けるといった特徴を挙げた。
印グルグラムにあるベンチャーキャピタル企業、エクシミウス・ベンチャーズの2024年の報告書によると、インドのゲーム人口は約4億4400万人で、うち約1億3800万人は有料ゲームをプレイしているという。
一部のユーザーは今回の禁止措置により、長期間隠れて運営されてきた「ギャンブル闇市場」が活発化するだろうと予測する。
「海外の違法ゲームにアクセスするため、仮想プライベートネットワーク(VPN)や、国外のブックメーカー(賭け屋)を使う人々がますます増えるだろう」とバルン・シャルマさん(24)は語った。シャルマさんは主にバスケットボールなどのファンタジーゲームを8年間プレイし、1回のゲームで最高120万ルピー(約200万円)を獲得したこともあるという。
法案が可決されて以降、テレグラムなどのメッセージアプリ上で賭博の勧誘などが急増したとシャルマさんは話す。禁止令が施行されて以来、「心が張り裂けそうで、前に進めない」と嘆いた。
<代替案>
新法では、リアルマネーゲームのための取引を銀行や決済会社が仲介することが禁止されている。
意志の強いプレイヤーは、インド政府の管轄外である暗号資産(仮想通貨)ウォレットに入金したり、米決済会社ペイパルを利用するといった回避策に出る可能性もある。
インド電子・情報技術省に禁止措置や、潜在的リスク、今後の動きなどに関するコメントを要請したが、返答は得られなかった。
ゲーム業界は各社が規模を縮小させるか、完全に閉鎖せざるを得なくなっていると警告している。
MPLは現地従業員の約6割を解雇すると発表した。
ラミーやポーカーゲームを提供するゲーム会社A23は、禁止令に異議を唱えて訴訟を起こした複数企業のうちの1つだ。インド最高裁は8日、複数の申し立てをまとめて審理すると発表したが、時期については明らかにしていない。
オンラインゲーム支持者の中には、ゲーム時間や支出額、入金額と賞金額の比率に制限を設けることで、依存症や経済的リスクを抑えられると主張する声もある。
ベンガルールでスポーツとゲーム関連の法律を専門とするナンダン・カマト弁護士は、ユーザーの権利や、デジタル領域での時間やお金の使い方について、より多くの議論が必要だと指摘する。
「スキルゲーミングを全面的に禁止することは、表現や職業選択の両方に対する不当な制限にあたると明確に主張することができる」とカマト氏は言う。
カマト氏は政府に対し、ゲーマーの欲求やニーズを満たす健全な代替案を促進し、デジタルヘルスプログラムを通じて依存症からの脱却を支援し、ユーザーに有害になりうる市場での取り締まりを強化するよう求めた。
ゲーム企業は、技術や人工知能(AI)、膨大なユーザーデータベースの拡大とともに成長する可能性もあるとカマト氏は分析した。
「こうした企業の一部は、新たな戦略でもう一勝負するかもしれない」