Guy Faulconbridge
[モスクワ 21日 ロイター] - ロシアのプーチン大統領はウクライナとの和平を巡り、ロシアと国境を接するウクライナ東部の「ドンバス地方」全域の割譲のほか、北大西洋条約機構(NATO)加盟の断念とウクライナの中立化、西側諸国の軍隊の国外退去を要求している。複数の関係筋がロイターに対し明らかにした。
プーチン氏の米ロ首脳会談での提案の詳細がロシアをベースにした記者によって報道されるのは初めて。
プーチン大統領は15日、米アラスカ州のアンカレジでトランプ米大統領と会談。関係筋によると、3時間の会談のほぼ全てをウクライナを巡る妥協案の検討に費やした。両首脳は具体的な協議内容について明らかにしていないが、ロシア側の関係筋によると、プーチン氏は2024年6月に示した領土を巡る要求の若干の妥協を示したという。
プーチン氏は当時、東部のドネツク州とルハンスク州で構成する「ドンバス地方」に加え、南部ザポリージャ州、ヘルソン州の4州の全体の割譲を要求。この4州はロシアが一方的に併合を宣言している。
関係筋によるとプーチン大統領は新たな提案で、ドンバス地方でウクライナが今も支配している地域からウクライナ軍が完全に撤退するという要求は維持しているものの、ザポリージャ州とヘルソン州では現時点の戦線で停戦すると表明した。また、ロシアは現在支配下に置いているハルキウ州、スムイ州、ドニプロペトロウスク州の小規模な地域を引き渡す用意があることも示しているという。
米国の推計とオープンソースのデータによると、ロシアはドンバス地方の約88%、ザポリージャ州とヘルソン州の約73%を制圧している。
関係筋によるとプーチン大統領は、ウクライナがNATO加盟を断念することに加え、NATOが東方に拡大しないという法的拘束力のある誓約、ウクライナ軍の制限、平和維持軍の一部として西側諸国の軍隊がウクライナに地上展開しないというこれまでの要求を維持している。
関係筋が示したプーチン氏の新たな提案について、ウクライナ外務省からコメントは得られてない。米ホワイトハウスとNATOからもコメントは得られていない。
<ゼレンスキー氏は撤退拒否>
ウクライナのゼレンスキー大統領はこれまで、取引の一環として国際的に承認された自国領土から撤退するという考えを繰り返し否定。工業地帯であるドンバス地方はウクライナの奥深くへのロシアの進出を阻む要塞の役割を果たしているとの考えを示している。
21日に公表された記者団向けのコメントでは「単に東部から撤退するという話であれば、そんなことはできない」と強調。「最強の防衛線が絡んだわが国の存亡に関わる問題だ」と述べた。
また、NATOへの加盟は憲法に明記された戦略目標であり、ウクライナにとって最も信頼できる安全の保証の一つ。ゼレンスキー氏は、加盟を決めるのはロシアではないと述べた。
米シンクタンクのランド研究所でロシア・ユーラシア政策を担当する政治学者サミュエル・チャラップ氏は、ウクライナにドンバス地方からの撤退を求めることは政治的にも戦略的にも、ウクライナにとって何の解決策にもならないと指摘。「相手側にとって受け入れ難い条件での『和平』に対する前向き姿勢はトランプ氏に向けたパフォーマンスの可能性がある」と語った。