
Gabriel Rubin
[ワシントン 22日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米政権の人工知能(AI)推進政策は今年、人々の生活費負担能力、いわゆる「アフォーダビリティー」の面で試練に直面する。
通常ならば、実質成長率が2%を超えるような経済運営をしている政権与党は高い支持率を得られる。しかし今はAIブームが電力価格を押し上げ、各地でデータセンター建設反対運動を引き起こし、雇用喪失への不安が渦巻く。東部ニュージャージーから南部ジョージアまで、野党民主党は有権者の反発を追い風に変える戦略を試しつつ、各地で勝利を重ねている。こうした不満は、11月の連邦議会中間選挙で与野党どちらが主導権を握るかを決定的に左右する要素になってもおかしくない。
左は急進左派のマムダニ・ニューヨーク市長から、右はトランプ政権内の保守強硬派まで、もはやアフォーダビリティーを口にしない日はない。その生活費で最も大きな悩みの種になっているのは電力料金だ。労働省労働統計局によると、2025年11月までの1年間の上昇率は6.9%、20年から25年では40%に上る。20年までの5年間の料金はほぼ横ばいで、その後にAIが急速に台頭してデータ処理と質問への回答のために膨大なエネルギーを消費するデータセンターが必要になった構図が浮かんでくる。
これはある種の米国政治の変化を示している。過去数十年間、家計負担の圧倒的な主役はガソリン価格だった。結局のところ、いくらマクロ経済的な物価指標が落ち着いていても、消費者はとりわけ日常の購入品の価格上昇には敏感になることが分かっている。ガソリンを大量に消費する車に米国が愛着を持つ点を考えれば、ガソリン料金こそはまさにその典型と言える。
だからこそ物価指標として非常に重視される消費者物価指数(CPI)の構成比率でガソリンは2.9%と比較的高くなっている。しかし米国内でいくらでも石油が生産できる今の時代、燃料費の上昇はごくわずかだ。その代わりにCPIの2.3%を占める電力料金が、暖房から電子機器の充電などの用途拡大に伴って以前より相当高水準となった。
この政治的な影響は最近の選挙で明白に示されている。25年のニュージャージー州知事選では、公共料金の凍結を公約に掲げた民主党のミッキー・シェリル氏が大差で勝利。南部バージニア州知事選でも、同党のアビゲイル・スパンバーガー氏が州内の事業への特別なエネルギー助成をはっきりと拒否する姿勢を打ち出して当選を果たした。バージニアは、世界のクラウドサービス大手のデータセンターの約15%が集中し、電力料金は全米平均のほぼ2倍の上昇率だ。
もちろんシェリル氏とスパンバーガー氏には、両州でトランプ氏の支持率がこれ以上ないほど低いといった点をはじめとして無数の有利な材料があった。ただ南部ジョージアでのもっと小規模な選挙で、アフォーダビリティーが争点になっている現実がより鮮明になった。同州の公益事業規制委員会の理事会メンバーに、テック大手企業に州最大の電力企業による発電所拡張工事のコスト負担を強制すると約束した民主党の2人が選出されたからだ。07年以降で初めて、民主党は理事会のポストを獲得した。
これまでのトランプ政権は、AIがもたらす電力危機と正面からぶつかる姿勢だった。
ホワイトハウスの「2025年AI行動計画」は、バイデン前政権が導入した規制を撤廃し、エネルギーやデータセンターの建設など、この技術に対する安全対策を実施する各州の権限を弱めることを目的としていた。トランプ氏は、オープンAIのサム・アルトマン氏とともに、サーバーファームや各種インフラを構築するための1兆ドル規模の計画を発表し、許可手続きを迅速化する大統領令を発令するとともに、バイデン前政権時代のクリーンエネルギー基金数十億ドルの予算を削減した。
ところが選挙での連敗やトランプ氏の支持率の低迷、与党共和党の地方議員の突き上げが政権の方針に影響を及ぼしたように見受けられる。政権は急いで住宅費高騰対策やクレジットカード金利上限設定などを提案したほか、複数の州と共同で米国最大の電力市場・電力網を運営するPJMインターコネクションに対して、緊急の電力調達入札の実施を要請した。この入札にはテック大手が応札し、増大するエネルギー需要のコストを支払うことになるだろう。
不穏な情勢を察知したのか、マイクロソフトMSFT.Oは電力会社と連携して自社のコストを負担するとともに、料金の急騰分を吸収すると約束。オープンAIは5000億ドル規模のAIインフラ整備計画「スターゲート」の一環として、公共エネルギーコストを軽減する戦略を発表した。
問題はAIが消費するエネルギーの大きさにある。国際エネルギー機関(IEA)は、米国のデータセンター需要が24年比で30年までに130%増加すると予測する。ゴールドマン・サックスのアナリストチームの見積もりでは、電力消費の増加に伴って同期間に発電設備への4440億ドルの投資が必要になる。一方でガスタービンから銅などの基本的な素材に至るまでの投入コストも跳ね上がっている。
家計への打撃に加えて、経済成長と雇用が連動しないという驚くほど異例の事態が続き、AIを再び悪役にするかもしれない。米国の失業率は25年11月に4.6%と、第2次トランプ政権発足時の25年1月の4%から上昇。成長率はなお高いものの、不安定な状況に拍車がかかっている一般労働者にとっては、ほとんど救いにならない。
雇用と成長率の相関性がなくなっている理由は多い。ただ鍵を握るのは世論の認識だ。
各種調査では、AIが雇用に与える影響への不安が高まっていると分かる。25年8月のロイター/イプソス調査によると、全体の71%がAIによって人々が永久に職を失うと心配していると答えた。
政策立案者も懸念を強め、米連邦準備理事会(FRB)のウォラー理事は25年12月、エール大学経営大学院主催のイベントで経営者らに「恐ろしいのは職が消えるスピードだ。そしてわれわれは新たに生まれる職を見通せない」と語った。
確かにテック企業は選挙に影響力を及ぼすため、巨額の資金を投じることは可能だ。実際、有望な前例となるのが暗号資産支持者の動きで、彼らは24年に約2億ドルを投じ、暗号資産に有利な政策を推進したトランプ氏を支援した。ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ創設者やオープンAIのグレッグ・ブロックマン氏などは、AI推進派を後押しする1億ドルの政治活動委員会を準備している。
高まる不満と新技術に対する熱狂の綱引きで、必ずしも業界が勝利するとは限らない。
ホワイトハウスが打ち出した、州によるAI規制の実施を10年猶予する措置については、36州の司法長官による超党派連合の反対を受け、上院でも否決された。共和党ながらもフロリダ州のデサントス知事は、データ保護や親による管理機能、消費者保護を含むAI基本権を定めた法案を提示した。
AIを巡る政治は新しく始まったばかりで、まだどうなるか分からない。物価や雇用への危険性は今後解消するかもしれない。ただ選挙の立候補者たちが、テック億万長者やトランプ政権内にいるその同調者に対抗する戦略で成功を収めれば、今後の全米での選挙、そして28年の次期大統領選でも再現されるのは間違いない。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)