
Gabriel Rubin
[ワシントン 10日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米連邦準備理事会(FRB)の「穏やかな合意形成」という伝統が崩れつつあり、ホワイトハウスとの対立が一層強まる予兆が見える。10日に連邦公開市場委員会(FOMC)で25ベーシスポイント(bp)の利下げを決定した際も反対意見が出た。だがその後パウエル議長は、物価安定の脅威に対してFRBは「十分態勢が整っている」と言い切った。この発言のメッセージは明確で、来年5月に誰が次の議長に就任するとしても、追加利下げを急がないということだ。
あらゆる要素を勘案すれば、トランプ大統領は今回のFOMCが示した認識に満足しなければならない。FOMCは景気拡大への自信を深め、来年の国内総生産(GDP)成長率見通しは9月時点の1.8%から2.3%に切り上がった。逆に物価上昇率は今年末に見込まれる2.9%から来年末には2.4%に鈍化すると予想されている。
それでも物価上昇率は6年連続でFRBが目標とする2%を上回ってしまう。一方雇用の流動性が限られている以上、FRBとしても効果が乏しい雇用改善のための政策対応には消極的にならざるを得ない。
トランプ氏が正式に指名したわけではないが、パウエル氏の事実上の後任と目されている米国家経済会議のハセット委員長。トランプ氏を喜ばせようと積極的な利下げに動くのではないかと市場は懸念するが、同氏は市場に歩み寄る姿勢を見せている。
ハセット氏は今週の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル主催の会合で「正しいことをする」のがFRB議長の役割であり、例えば物価上昇率が2.5%から4%に跳ね上がれば、FOMCは利下げできないと述べた。
もっともハセット氏は、現在の米経済には追加利下げの「余地が大いにある」とも主張した。ただ市場は、ハセット氏の意見が通るとあまり確信していないようだ。投信大手バンガードは来年末の政策金利を3.5%と想定し、FRBが長期間利下げを停止するとみている。バンク・オブ・アメリカのアナリストチームは、次期議長就任から2回のFOMCで計50bpの利下げを予想しつつも、その後の追加利下げ余地はほとんど見込んでいない。
トランプ氏とベセント財務長官に背中を押される形で、もっと積極的な利下げを期待する向きもいる。一部には債券市場の「反乱」が起きる前に政策金利が3%を下回る場面があると予想する声も聞かれる。
ただ今回のFOMCでは、3人が反対票を投じた。これは2019年以降最多の反対で、さらにFOMCの投票権メンバー12人の大半は来年わずか1回の利下げしか想定していない。その点からすると、ハセット氏やそれ以外の誰が議長になっても、自らの見解をFRB内で強引に推進するのは難しいだろう。
●背景となるニュース
*FRBが3会合連続で0.25%利下げ、反対3票 緩和一時停止を示唆nL6N3XG14O
*〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨nL6N3XG17Z
*FRB当局者、来年利下げは1回が中心 幅広く意見分裂=金利・経済見通しnL6N3XG14S
*米FOMC声明全文nL6N3XG16L
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)