Hyunjoo Jin Heejin Kim
[ソウル 9日 ロイター] - 米南部ジョージア州にある韓国の現代自動車005380.KSの電気自動車(EV)用電池工場建設現場に4日、米当局の大規模捜査が入り、不法滞在や不法就労の疑いで300人余りの韓国人を含む475人の外国人労働者が拘束された。韓国では以前から、トランプ米政権による取り締まり厳格化で摘発される可能性を懸念する声が従業員から出ていたにもかかわらず、多くの従業員が問題のあるビザ(査証)で米国に派遣されて働いていたことが、さまざまな関係者の証言で明らかになった。
韓国企業は長年、米国内のハイテク工場の稼働に必要な専門技術者向けの短期滞在・就労ビザの獲得に苦労し、これまでの米政権下ではビザの規定を拡大解釈する、いわゆる「グレーゾーン」を利用してきたという。
ところが第2次トランプ政権誕生で様相が一変。ロイターが10人以上の複数企業の従業員や政府関係者、入国手続きに詳しい法律専門家らに取材したところ、一部の労働者は就労要件を完全に満たしていないとの理由で入国を拒否されていたことが分かった。
今回ジョージアで拘束された韓国人従業員の多くは、完成間近の工場に機械設備を設置するための技能労働者で、出張などの短期商用目的のビザ「B1」ないしは「ESTA」と呼ばれるビザ免除の事前入国認証制度を使って米国に入っていた。
韓国電池産業協会の副会長は「電池技術者に必要とされるH1Bビザの取得は極めて難しい。だからB1ビザもしくはESTAが利用された」と述べた。
ジョージア州の工場で働く従業員の1人はロイターに、これが以前から慣行だったと明かした上で、「危険信号は点滅していた。彼らは法の網をすり抜け、働きにやってきたのだから」と語った。
米移民・税関捜査局(ICE)による摘発は韓国国内に衝撃をもたらした。ただ韓国の労働者からは以前から、トランプ政権の取り締まり強化と、関税・貿易協議の焦点となっていた韓国企業による対米投資の狭間で身動きが取れなくなるのではないかとの懸念が出ていた。
<企業側の対応>
拘束された6人と以前一緒に働いていたというある韓国の機械技術者は「私は彼らに、捕まれば生活が台無しになりかねないと警告し、もう米国には行かないでくれと懇願していた」と話す。
この技術者もかつて、機械の専門家ではなく監督者だと言い張り、米国のB1ビザを取得したという。
ジョージアの電池工場建設で現代自動車と協力していたLGエナジー・ソリューション(LGES)373220.KSの下請け労働をしているという別の技術者は今年、B1ビザを申請したが何の説明もなく却下され、メキシコ経由で米国に入ろうとしたものの、ソウルで飛行機への搭乗を阻まれたと述べた。
「米国は韓国の同盟国と思っていたが、彼らは私を不法移民のように扱っている」と嘆く。
LGESは、従業員のビザに関するロイターの問い合わせに対して声明で「(従業員と下請け労働者の)ビザ問題解決に向けて積極的に取り組んでいる」と強調し、違法行為を防ぐための法律事務所による説明会開催もそうした対策に含まれるとしている。
現代自動車は、下請け労働者が米国の入管法に違反したとされている件でロイターが質問すると、法律に従わない者は「絶対に許容せず」、サプライヤーと下請け企業の雇用慣行も調査するとした同社の声明を繰り返した。
LGESは、ジョージアで47人の雇用者が拘束されたと説明し、米国内の残りの労働者には帰国ないし自宅待機を促した。
現代自動車とLGESによると、現代の正規従業員が拘束された形跡はなく、拘束者の大半は下請け労働者だという。
<韓国はビザ改革要望>
ジョージアで拘束された韓国人労働者は今後釈放され、本国に戻る見通し。ただこの摘発は、米国と同国向けに多額の投資をしてきた韓国との経済関係に影を落としている。
韓国外務省高官は7月、ロイターに下請け労働者に適した労働ビザがないため、迅速に米国へ入るためにESTAに頼らざるを得ず、一部の労働者が入国を拒否される事態につながっていると苦言を呈した。
米国は自由貿易協定を結ぶオーストラリアやシンガポールには技能労働者向けのビザを新設しており、韓国はこれと同様の措置を導入してほしいと長年要望しているものの、進展はほとんど見られない。
韓国の趙顕外相(訂正)は8日、ビザ制度の改革を主として協議するため米国に向けて出発した。
一方トランプ氏は対米投資の呼び込みに熱心だが、7日には各企業が米国の労働者を雇用し、訓練する必要があり、入管法を尊重しなければならないとくぎを刺した。
またトランプ氏は、外国メーカーの専門家が米国労働者の訓練目的で入国するのは認める可能性があるとの考えも示した。