Gabriel Rubin
[ワシントン 14日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 「貿易戦争に伴う問題を見極めるまで待て」のシグナルは大きな音を立てて終了した。米労働省統計局(BLS)が14日発表した7月の卸売物価指数(PPI、最終需要向け財・サービス)は前月比0.9%上昇し、エコノミスト予想を大きく上回った。これは、一連の政策金利引き下げへ向けた根拠と願望を揺るがすのに十分な重大性と意外性を伴い、トランプ政権の怪しげな経済政策に新たな疑念を投げかけるものだ。
7月のPPIはまた、輸入関税の引き上げによる直接的な影響の証拠を提供している。企業の利益率の指標となる貿易サービスは前月比2%上昇した。これは企業が投入コストの上昇分を埋め合わせるため、もしくは将来の収益性がより広範囲にわたって抑制されるとの想定に基づき、販売価格を引き上げていることを示唆している。PPIの上昇には機械・機器が大きく寄与しており、4月以降の1000億ドルもの関税収入には物価上昇の代償が伴っていることを示している。
さらに7月のPPIは、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の整然とした理論に基づく取り組みが正しかったことを立証している。パウエル氏の取り組みは、消費に依存する経済では販売価格の大幅な値上げを伴わずに関税の平均税率を約2%から20%超に引き上げることはできないという前提に基づいている。一方でベセント米財務長官は、政策金利のフェデラルファンド(FF)金利を現在の4.25─4.50%から1.5%ポイント引き下げる要求を正当化するのが困難になるだろう。先物市場は年末までに少なくとも0.75%の利下げを織り込んでいた。
トランプ米大統領のパウエル氏に対する容赦ない「いじめ」も、財政政策と金融政策の境界線をぼやけさせながら、金融政策を誤った方向に導く度合いが大きくなっている。トランプ氏は今週、米国の消費者が最終的に関税コストの3分の2を負担することになると予想したゴールドマン・サックスGS.Nのチーフエコノミストを解雇すべきだと主張した。予想を変えなかったゴールドマンの分析は現在、精度が一段と高まっているようだ。
PPIは折しも、信頼でき、かつ権威のある統計担当者の重要性を思い起こさせることになった。世界中の投資家は米労働省BLSなどからの正確な公式統計に依存している。ところがトランプ氏は今月、7月の雇用統計で過去分が大きく下方修正されたことを受け、BLSの局長を解雇した。トランプ氏は後任の局長に、自分に従順でBLSを指揮するのに不可欠な経験を持たない人物を指名した。
仮にPPIが故意に操作されたとしても、米経済を強くすることには全くならないだろう。それどころか、米経済が統計上は好調でも実態は低迷しているという矛盾があったとすれば、それは債券市場において、先行きを予想できないという問題と視界不良な状況下での運用に付随するリスクの拡大に対する埋め合わせが要求されるという形で表れるだろう。
●背景となるニュース
*米労働省統計局(BLS)が14日発表した7月の卸売物価指数(PPI)は前月比0.9%上昇し、エコノミスト予想の0.2%上昇を大きく上回った。nL6N3U60P9
*PPIは前年同月比では3.3%上昇。サービス価格は前月比1.1%上昇し、伸びは2022年3月以降で最大となった。機械・機器や資産運用管理費、宿泊費、貨物の道路輸送費などが大きく値上がりした。モノの価格は前月比0.7%上がり、伸びは今年1月以来の大きさになった。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)