
Mike Dolan
月末に退任する米アトランタ地区連銀のボスティック総裁が20日に行った講演は、米連邦準備理事会(FRB)の次の一手が利上げになる可能性を示す驚きの内容だった。
米連邦最高裁判所がトランプ米大統領の「相互関税」に違憲判決を下すなど、先週末から大きな経済ニュースが目白押しだったためか、ボスティック氏の発言は大して脚光を浴びなかったが、その指摘は鋭い。
9年にわたり総裁を務めたボスティック氏は、金融政策の中間派からタカ派に転じた人物。20日の講演は、FRB内で追加利下げへの抵抗感がかなり強いことを示した。トランプ氏が要求し、同氏が任命したFRB幹部数人が支持しようとしている大幅な利下げへの抵抗感は言うまでもない。
ボスティック氏は、米経済は昨年の関税ショックに対して「目覚ましい耐性があり」、現在は人工知能(AI)投資の追い風を受けていると主張。従って「やや景気抑制的な」政策を続けるべきだと述べた。
しかしインフレ再燃の兆しについては明確な警戒信号を出し、数年間落ち着いていたインフレ率が再び上昇し始めれば「極めて憂慮すべきことであり、私見では、利上げを検討せざるを得ない」と述べた。
年内60ベーシスポイント(bp)程度の追加利下げを織り込んでいる市場にとって、これはハッとさせられる指摘だ。しかも最新の物価データを踏まえると、この警告の重みは増す。
1月の消費者物価指数(CPI)上昇率の鈍化に債券市場は沸いたが、12月の個人消費支出(PCE)コア価格指数は前年同期比上昇率が3.0%と約2年ぶりの高さで、予想平均を超えただけでなく、FRBの物価目標を1%ポイントも上回った。
その上、PCE価格指数に反映されるCPIの項目を見る限り、1月のコアPCEも少なくとも前年比3%上昇しそうだ。
しかもPCE価格指数は、航空料金や医療サービスなど卸売物価指数(PPI)の項目も用いて算出されるため、直近のPPIを踏まえると1月のコアPCEは前年比3.1%上昇する可能性もある。
<FRBは既にインフレ醸成か>
もちろん、関税変更によるインフレへの影響は議論されている。しかし昨年の関税引き上げによる影響が遅れて表面化している兆候もある。
トランプ氏は、最高裁判決により撤廃する「相互関税」の代わりに新たな関税を導入したため、相互関税撤廃による好影響は一過性に終わり、遅効的な影響がさらに長引く恐れもある。
ボスティック氏や、さらにタカ派のFRB幹部らが恐れるのは、コアインフレ率が物価目標を上回る期間が長引けば長引くほど、企業と市民はFRBがそれを許容しているとの認識を強め、インフレ期待に跳ね返るということだ。
PCEコア価格指数は2010年代、ほぼ2%を下回って推移していたが、過去5年間はほぼ2%を上回っている。
市場は、ウォーシュ次期FRB議長が5月に就任すれば利下げが再開されるとのハト派的観測に傾いている。
その論拠は(1)関税関連の物価上昇は一時的だ(2)労働市場は軟調だ(3)AIによる生産性向上はすぐそこまで来ている――といった主張の組み合わせだろう。
しかし歴史が示すように、AIのようなテクノロジー関連の投資急増期には、実質金利は上昇する傾向がある。生産性向上による物価抑制効果が現れる前に、まず経済が過熱するからだ。
現在のFRBの政策が既に経済活動や物価を刺激してしまっている恐れもある。
タカ派のボスティック氏は、3.62%という現在のフェデラルファンド(FF)金利について、依然としてやや景気抑制的だと主張している。しかしミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は先週、既に中立水準に達したとの見方を示した。
この点は極めて重要だ。FRBは本当にこの局面で経済を刺激し始めたいのだろうか。
ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁が共同執筆した様々なモデルに基づくと、現在の実質金利は、中立金利の推計値を50―100ベーシスポイント(bp)下回っている。
ボスティック総裁は退任間際に警告の赤旗を振った可能性がある。それを完全に無視するのは愚かなことかもしれない。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)