
Manishi Raychaudhuri
[香港 22日 ロイター] - 国際情勢は昨年に極度に緊迫したが、最近もトランプ米大統領がベネズエラへの軍事攻撃に踏み切り、デンマーク自治領グリーンランド獲得に意欲を示すなど、当面は緊張が緩和しそうにない。こうした状況から生まれる意外な「勝ち組」の1つが、アジアの防衛関連企業ではないか。
防衛支出は世界中で増えている。北大西洋条約機構(NATO)加盟国は昨年6月、防衛予算の対国内総生産(GDP)比を2026年に2.8%とし、35年までにさらに5%へ引き上げることで合意。主要国ドイツは29年までに3.5%とする暫定目標を掲げている。日本も27年までに防衛支出の対GDP比を2%に倍増させる計画だ。米国は昨年末に26会計年度の国防予算を9010億ドルとする国防権限法(NDAA)が成立しただけでなく、トランプ氏は国防予算を27年度には1兆5000億ドルへ引き上げたい考えだ。
こうした背景を考えれば防衛関連銘柄が昨年大きくアウトパフォームしたのは驚きではない。市場では欧州の防衛関連上場投資信託(ETF)が昨年初めから26年1月初旬にかけてほぼ倍増。米国を代表する巨大テック企業「マグニフィセントセブン」は20%強の上昇にとどまったが、この期間にアジアと米国の防衛株はそれぞれ約75%、50%上昇した。
https://www.reuters.com/graphics/ROI-ROI/mypmqwkdjpr/chart.png
今後12カ月を見据えると、アジアの防衛企業は欧州の大手防衛企業を上回る値動きを示す可能性がある。というのもアジアの防衛企業は、欧州連合(EU)向け輸出の増加と、アジア各国における防衛産業内製化の拡大という2つの追い風を受けているからだ。
<輸出の急増>
アジアの防衛企業は欧州市場での存在感がますます高まっており、その先頭に立っているのが韓国企業だ。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、韓国は世界第10位の武器輸出国で、世界全体の武器輸出におけるシェアが20─24年には2%となった。この期間の韓国の防衛輸出は53%が欧州向けで、ポーランド向けが46%に達した。
https://www.reuters.com/graphics/ROI-ROI/zjpqdgybxvx/chart.png
一部の欧州諸国は、今では米企業よりもアジア企業からの防衛品輸入が多く、この点は特にポーランドで顕著だ。タイムリーな製品供給と同等の品質で比べた場合の価格の安さが韓国企業の強みになることが少なくない。
https://www.reuters.com/graphics/ROI-ROI/zgpoyenadpd/chart.png
もっとも、韓国だけが選択肢というわけではない。SIPRIのまとめた武器生産企業トップ100にはアジアの企業が23社含まれている。内訳は中国が8社、日本が5社、韓国が4社、インドが3社で、台湾、シンガポール、インドネシアが各1社ずつ。中国企業を除くと全ての企業が過去1年に売上高を大きく伸ばしている。
https://www.reuters.com/graphics/ROI-ROI/lbvgmdladvq/chart.png
<国内重視>
アジアの防衛企業の台頭には防衛品製造業界における「内製化(インソーシング)」の動きも深く関係している。効果的な国家安全保障戦略には自前の軍需産業基盤が不可欠だという考えのもと、アジア各国は輸入に代えて国内製造業への注力を強めている。
東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の一部は、防衛産業の国産化について野心的な目標を設定している。例えばインドネシアは主要防衛装備における国産比率を26年の40%から30年までに60%へ引き上げることを計画している。またベトナムは、防衛用レーダー、シミュレーター、人工知能(AI)における国産化比率を、昨年の約32%から30年までに50%に高めることを目指している。
SIPRIによると、先頭を走っているのは世界第2位の武器輸入国であるインド。インドは15年、当時の35-40%だった防衛産業の国産化比率を27年までに70%に引き上げる目標を設定した。昨年時点の比率は65%で、目標達成に向けて計画は順調に進んでいる。国産化のあおりを食ったのはロシアで、ロシアの対インド武器輸出は平均すると過去10年で大きく減った。
https://www.reuters.com/graphics/ROI-ROI/zjpqdgyeevx/chart.png
<強い成長、割安な評価>
相対的に魅力的なバリュエーションも、26年にアジアの防衛株を押し上げる要因になりそうだ。SIPRIの武器生産企業トップ100から20社を抽出したサンプルを見てみよう。選んだのは、欧米の業界リーダーに加え、時価総額が100億ドルを超え、コンセンサス利益予想が入手可能なアジア企業だ。
https://www.reuters.com/graphics/ROI-ROI/movabzqrqpa/chart.png
通常、予想利益成長率が株価収益率(PER)を上回る、PEGレシオが1未満の銘柄は割安と見なされる。この指標で見ると、20社のうち9銘柄が割安で、うち6銘柄がアジア企業だ。
6社のうち4社は、韓国航空宇宙産業(KAI)047810.KS、ハンファ・エアロスペース012450.KS、現代ロテム064350.KS、LIGネクスワン079550.KSの韓国の防衛大手が占めた。これに中国の中航光電科技股分有限公司(Jonhon Optronic)002179.SZと日本の川崎重工業7012.Tが加わる。
割安でかつ成長力が強い企業のグループをみてもアジア企業の成長が際立っている。最も高い利益成長予想を持つ5社のうち4社は韓国企業で、非アジア企業はドイツのラインメタルRHMG.DEだけだ。
アジアの防衛企業は今年アウトパフォームを達成する上で好位置に付けているように見えるが、なお大きな逆風も残っている。最も重要なのは、オーストラリア戦略政策研究所が指摘するように、AI、量子通信、極超音速、先進的自律システムといった最先端分野では引き続き欧米企業の後塵を拝している点だ。
また、中国が最近、日本向けにレアアース(稀土類)など重要な「軍民両用」材料の輸出を停止した事例に見られるように、アジアの製造業者にとってサプライチェーン(供給網)の脆弱性も依然として存在する。
したがってアジア企業が急速な成長を保つには、研究開発(R&D)への取り組みを大幅に拡大するとともに、重要資材の途切れない供給を確保することが欠かせないだろう。
欧州の防衛銘柄は昨年急速な上昇を享受した。しかし投資家がより強い成長とより魅力的なバリュエーションを求めるにつれ、注目はアジアの市場リーダーへと移りつつあるのかもしれない。
(筆者はエマー・キャピタル・パートナーズの創業者兼最高経営責任者(CEO)のマニシ・レイチャウドゥリ氏。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)