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2026年の視点:市場を揺さぶるビッグ3は誰か=尾河眞樹氏

ロイターDec 25, 2025 12:42 AM

尾河眞樹 ソニーフィナンシャルグループ執行役員 チーフアナリスト

- 早いもので2025年もあとわずか。2026年の金融市場はどのような展開になるのだろうか。そのカギを握る注目人物は誰か。今年も、あくまで筆者の個人的な見解に基づき、市場の動きに大きな影響を与えると思われる「ビッグ3」ランキングを示しつつ、来年の為替相場を展望してみたい。

2026年に注目したい人物の第3位は、5月に就任予定となる、米連邦準備理事会(FRB)の次期議長である。本稿執筆時点で最有力候補とされているのは、国家経済会議(NEC)のケビン・ハセット委員長と、元FRB理事のケビン・ウォーシュ氏の2人だ。トランプ大統領は12月12日、米紙ウォールストリート・ジャーナルのインタビューで、「ウォーシュ氏が最有力候補か」という質問に対し、「そうだと思う」と答えたうえで、「2人のケビンはどちらも素晴らしい」と述べた。さらに「他にも素晴らしい候補が何人かいる」と付け加えたが、「2人のケビン」以外だと、現FRB理事のクリストファー・ウォラー氏などが有力視されているようだ。

本稿ではいったん「2人のケビン」に注目してみよう。最も有力とされているハセット氏は、1962年生まれの63歳。米コロンビア大学ビジネススクールの准教授を務めた後は、シンクタンクの研究員などを経て、トランプ政権では大統領経済諮問委員会(CEA)委員長や、国家経済会議(NEC)委員長など、政権中枢で政策立案を担ってきた、いわゆる「政策系エコノミスト」だ。ただ、市場参加者の間では政治色が濃く、トランプ大統領と近すぎることを懸念する声もある。

政策スタンスとしては、積極的な利下げを支持する「超ハト派」で、12月19日には、「現在のコアインフレ率は基本的に目標水準か、それを下回っている」「大きな利下げ余地がある」などと述べている。トランプ大統領は次期FRB議長について、「金利を大幅に引き下げることを信じている人物になる」と述べており、ハセット氏も積極的な金融緩和を主張しているだけに、同氏が選出された場合には、為替市場ではドル安圧力がかかりやすいだろう。

一方、ウォーシュ氏は1970年生まれの55歳。モルガン・スタンレーでM&A(合併・買収)を担当するなどウォール街出身で、その後はNECの事務局長やFRB理事を歴任した人物だ。政策スタンスは、利下げを強く支持する点でハセット氏と同様だが、相違点は単なる緩和推進ではなく量的引き締め(QT)を同時に推奨していることだ。根拠としてはFRBのバランスシートが巨大になりすぎたことで政策金利と長期金利の動きに歪みが生じたことを挙げており、25年5月の講演では「バランスシートを拡大しないようにすれば、政策金利を引き下げることができる」と述べている。インフレの抑制と中央銀行の信頼回復を主張し、FRBの独立性も重視している点で、市場からの評価も高い。

なお、市場参加者が懸念する「FRBの独立性」について、2人のケビンは共に重視する考えを示している。したがって、どちらがFRB議長になったとしても、米国のインフレ上振れリスクが高まった場合には、それを放置する可能性は低いのではないか。ソニーフィナンシャルグループは、今後米国のインフレは高止まりすると予想しており、来年6月、次期FRB議長就任直後の米連邦公開市場委員会で0.25%の利下げ1回で、利下げは終了と予想している。

注目したい人物第2位は、第45代・第47代米国大統領のドナルド・トランプ氏である。25年は1月の第二次トランプ政権発足に始まり、米中摩擦や4月の相互関税ショックなど、不確実性が高まった年だったが、その割に株価はグローバルに堅調だった印象だ。

「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも怖じ気づいてやめる)」の期待もあると思うが、AI関連株やFRBの利下げへの期待など、さまざまな期待が株式市場全体を支えた面はあるだろう。しかし、26年についてこれらの期待通りにいくかと言えば、リスクもあるのではないか。

特にトランプ大統領が主張する「大幅利下げ」については、来年は市場の思惑通りにはいかないように思われる。実際、コア消費者物価指数(CPI)を見れば明らかなとおり、財価格は関税の影響により前年比でプラス圏に浮上し、住宅市場の悪化によるサービス価格の低下がこれを打ち消している状況だ。おそらく、関税の影響は今後も米インフレを高止まりさせる公算が大きい。

加えて、来年はトランプ減税が始まり、トランプ氏は積極的に規制緩和も行うだろう。これらにより米経済が持ち直す公算であることも、インフレ高止まりとみる根拠の一つだ。世論調査を見ると、11月以降、トランプ大統領の支持率が低下した要因として、「生活費」上昇への不満が最も大きいことがわかる。これを受けてトランプ氏は、食料品など一部の関税を撤廃するなど対応を余儀なくされた。

26年は、アメリカ合衆国建国250周年の年。7月4日を中心に様々な式典が予定されており、11月には中間選挙も控える。この重要な年にトランプ政権が何としても支持率を回復しようと、日本さながら「物価高対策」を重視する必要に迫られれば、FRBに大幅利下げを強いることは困難となり、むしろ政策金利は高めに維持する必要が出てくるのではないか。もしも無理な大幅利下げを実施すれば、米経済はスタグフレーションに陥り、将来大幅に金利を引き上げなければならなくなるリスクを孕む。

26年に注目したい人物の1位は、日本の第104代内閣総理大臣、高市早苗氏である。日本初の女性総理大臣であり、パイオニアとしての期待を込めて1位とした。

10月の政権発足後2カ月経っても、調査によっては依然75%という高い支持率を誇り、順調な滑り出しだが、日中関係悪化の懸念や、長期金利の上昇と円安の同時進行など、課題にも直面している。日銀は12月19日の金融政策決定会合で、政策金利を0.5%から0.75%に引き上げた。利上げにも関わらず直後に2円近くも円が急落したのは、やや「やりすぎ感」があると思ったが、案の定、片山さつき財務相による強めの円安けん制により、円は決定会合後の下落分をほぼ取り戻した。

しかし、これで安心してはいられない。今年の円の名目実効為替レートを見ると、4月の相互関税ショック後と、10月の高市政権発足後に顕著に下落しており、これは明らかに日銀の利上げ観測が後退したことによるものだ。さらに、高市政権による総合経済対策の議論に注目が集まり始めた11月中旬以降も円安圧力が強まっていることを踏まえれば、「積極財政による財政悪化懸念」も円安要因の1つと見てよいだろう。

高市政権発足以降、超長期債の利回りが急上昇した一方で、円は下落トレンドが続いている。通常、金利上昇は通貨高要因だが、このように財政懸念による「悪い金利上昇」の際には、円には売り圧力がかかりやすい。そして、円が下落すると、期待インフレを示すブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)が上昇し、インフレがさらに加速すると同時に円は下落するという、負のスパイラルになる傾向がみられる。このスパイラルを断ち切るには、日銀の利上げだけでなく、積極財政の財源の議論や歳出削減の話も同時にしていく必要があるだろう。

高市首相は12月23日、都内のホテルで行われた年末エコノミスト懇親会でのスピーチで、「今の日本に必要なのは責任ある積極財政で国力を強くすることであり、今始めないと間に合わない」と述べた。確かに、国力を強くすること、成長投資や生産性の向上により日本の潜在成長率を高めることは、長い目で見れば円の上昇に繋がり、円安→コストプッシュインフレの加速という負のスパイラルを改善するには重要だ。しかし、責任ある積極財政の「責任ある」の議論なくしては、市場からは単なる「バラマキ」と受け取られかねない。足下は円安、債券安でも株高が進行中だが、本格的なトリプル安を招かないためにも、円安と債券安の同時進行という市場のシグナルを無視すべきではないだろう。

なお、ドル/円JPY=EBSの26年末予想値は158円に置いている。日米金利差縮小と介入の可能性も鑑みれば、一時的にドル/円が150円付近まで下落してもおかしくないが、その後は先述の「ドル高」によりドル/円は緩やかに上昇すると予想する。2026年は午年だ。「辰巳天井、午尻下がり」を心配する声もあるが、「馬到成功(ばとうせいこう)」という言葉もあるように、日本の成長に向けた大きな一歩となるような、良い年となることを祈るばかりである。

編集:宗えりか

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルグループの執行役員チーフアナリスト。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析を担当。著書に「〈最新版〉本当にわかる為替相場」、「ビジネスパーソンなら知っておきたい仮想通貨の本当のところ」などがある。

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