
Neil Unmack
[ロンドン 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 欧州での電気自動車(EV)を巡る政策後退は、自動車メーカーにとって小さなクリスマスプレゼントでしかない。欧州連合(EU)は16日、2035年以降の新車販売を原則として電気自動車(EV)に統一する計画を断念すると発表した。
欧州の温室効果ガスの排出を巡る規制強化の動きは米国より厳しいため、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)VOWG.DEなどの自動車メーカーは、米フォード・モーターF.Nが15日に公表したようなEV計画の大幅削減には踏み切らない見通しだ。それでも今回の後退は、各国政府が環境対応車への移行に急ブレーキをかけるきっかけにもなりかねない。
EUの目標修正は避けられない状況だった。EUは温室効果ガス排出量を30年までに1990年比で55%削減することを目指しており、2035年には内燃機関車の新車販売を原則として禁止する計画だった。しかし、欧州自動車工業会(ACEA)の統計によると、2025年1―10月のEV新車販売台数は全体のうち16%にとどまっている。
ドイツ銀行のアナリストらは、30年時点でもEVのシェアは45%を下回ると予測している。
それでも欧州はEVの販売目標の達成に向け、ほんの少しスピードを緩めるに過ぎない。35年の新たな目標でも温室効果ガス排出量削減のうち9割は実際に減らし、残り1割を合成燃料と低炭素鋼の使用によって削減する必要がある。
また、30年までに温室効果ガス排出量を55%減らす目標は3年間に分けて達成できる。これはトランプ米大統領がEV補助金を大幅に削減し、排出ガス規制の大幅な緩和を提案している米国とは大きくかけ離れている。
フォードは15日、一部のEVモデルの販売を停止し、EV事業関連で200億ドル近くの評価損計上を発表した。これに対し、欧州のルノーRENA.PAやステランティスSTLAM.MI、BMWBMWG.DE、VW、メルセデス・ベンツでは同じような事態は起こりそうにない。むしろ欧州メーカーにとって重要なのは、EU当局から巨額な罰金処分を受ける可能性が低いことだ。
自動車メーカーにとっては、もはや主要な問題ではないと言える。業界はバッテリー技術と生産能力に多額の投資を進めてきた。これによってEVのコストは低下し、消費者が内燃機関車を買う場合に比べて大きな割増金を支払う必要がなくなった。一例としてVWは来年、最低価格が2万ユーロ強のEVハッチバックモデルの発売を計画している。
より大きな課題は、EVが手軽に安く充電できると消費者に納得させることだ。ACEAの試算によると、EUの30年の温室効果ガス排出削減目標を達成するだけでも800万カ所を超える充電拠点が必要となるが、現状は100万カ所未満にとどまっている。
欧州での充電料金が大きくばらついている現状を踏まえると、エネルギーコストの引き下げも急務だ。さらに、EVの普及率が国によって大きく異なっていることは、欧州の政策調整不足を浮き彫りにしている。ACEAのデータによると、今年10月時点でイタリアが5%未満、ドイツが21%程度、デンマークは70%程度に達している。
EUの16日の発表は、そうしたより大きな問題を解決するものではない。むしろ危険なのは政治家がこの動きをさらなる後退が避けられない兆候だとみなし、政府がEVや充電器への追加支援を回避する動機付けとなることだ。そうなれば欧州のエネルギー転換はさらに困難になるだろう。
●背景となるニュース
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