
Mei Mei Chu Antoni Slodkowski Michael Martina
[北京/ワシントン 26日 ロイター] - 中国の軍最高幹部を巡る調査は、習近平国家主席が長年進めてきた汚職粛清が自身の最側近にまで及んでいることを示している。党指導部に対する忠誠に関しては、個人的に親密な関係であっても保護の対象にはならないことを浮き彫りにした。
中国の専門家は、習氏が長年の盟友で中国人民解放軍の制服組トップである張又俠・中央軍事委員会副主席を調査対象としたことで、習氏に権力が一段と集中し、ただでさえ中国軍の秘密主義的な指揮系統が一層不透明になっていると指摘する。また、短期的に台湾に対する攻撃の可能性が低くなった可能性があるとしている。nL6N3YQ092
ワシントンのブルッキングス研究所のジョナサン・ジン氏は今回の調査を「驚くべきだ」と評し「張氏の解任は指導部の中に今や安全な者が一人もいないことを意味する」と述べた。
米中央情報局(CIA)のトップレベルの中国アナリストを長年務め、2021年から23年にかけて米国家安全保障会議(NSC)の中国担当ディレクターを務めたジン氏は、この調査が中国政治の「重大な転換点」になると付け加えた。
この変化が注目に値するのは、過去の粛清が習氏と何らかの接点はあるかもしれないが強い個人的な関係を欠いた人物を標的にしていたためだ。粛清は今回、ジン氏が習氏の政治的な太陽系の「小惑星帯」だと表現した領域に踏み込んだ。
習氏と張氏はともに、中国共産党革命にかつて参加した高級幹部の子弟である「紅二代」だ。75歳の張氏は当初22年に引退すると見込まれていたが、習氏は彼を中国軍の最高指導機関である中央軍事委員会の委員として3期目も留任させていた。
国防省は24日、中央軍事委の副主席として習氏に次ぐナンバー2の地位にある張氏について「重大な規律および法律違反の疑い」で調査していると発表した。
習氏が12年の就任後に命じた広範な汚職取り締まりの主な標的の一つは軍だった。粛清は23年、核兵器や通常ミサイルを管轄する精鋭のロケット軍に及んだ。2人の元国防相もまたここ数年で汚職を理由に共産党から追放された。
ジン氏は「汚職の懸念はおそらく真実だろうが、中国政治でそれらは通常、むしろ誰かを排除するための口実だ」と述べた。
もう一人の高官で中央軍事委の軍統合参謀部参謀長の劉振立氏も調査対象となっており、7人の委員で構成される軍事委は事実上、習氏を頂点とする2人に縮小した。
<脅威の排除>
25日付の中国軍機関紙の解放軍報の一面社説は、今回の調査を重大な成果だと評し、2人の将軍が「軍事委主席責任制」を「深刻に損ない違反した」と付け加えた。
中国政府によると、習氏はこの制度の下で中央軍事委主席として「軍の最高意思決定権」を掌握している。これはまた「軍に対する党の絶対的な指導を実践するための制度的な取り決め」として機能している。
アジア社会政策研究所の中国分析センターのシニアフェローであるライル・モリス氏は「軍事委主席責任制に対する違反を引き合いに出しており、張氏が習氏のいない場所で権力を持ちすぎていた状況を示唆している」と述べた。
解放軍報の記事はそれ以上の詳細を明らかにしておらず、権力闘争の証拠も示さなかった。不忠を暗示していると言うアナリストもいれば、張氏が習氏の権力に対する脅威だったとの見方に懐疑的なアナリストもいる。
モリス氏は「習氏がこのような劇的な行動に出たのは二つのことを示唆している。習氏が中国共産党の全面的な支持を得ており、そして習氏が軍を巡る権力掌握を固めていると自信を持っていることだ」と語った。
張氏は過去に習氏が命じた広範な汚職取り締まりの標的となっていた人民解放軍の装備調達部門を統括していたが、張氏自身はこれまで汚職取り締まりから免れてきた。
シンガポールのS・ラジャラトナム国際学術研究院の研究者ジェームス・チャー氏は「習氏が自身の人民解放軍に対する反腐敗運動が選別的で彼と同様に紅二代と呼ばれる人々は見逃されているという批判に応えている」と述べた。
<指導部の欠員>
しかし、軍の指導部を補充なしに欠員のままにすると世界最大の軍隊の運営に疑問符が付く。
ブルッキングス研究所のジン氏は「指揮系統がどのように機能すべきか正直なところ不透明だ。とりわけ、本来であれば解任された委員の交代要員となるはずの将校の多くが追放されているからだ」と述べた。
他のアナリストは習氏が軍事委を再構築できるまで合同訓練の拡大のような高レベルの構想が停滞すると予想している。
ワシントンに拠点を置く安全保障コンサルタント会社ブルーパス・ラブズのリサーチ・ディレクターであるエリック・ハントマン氏は「委員を補充するようになるかもしれないし、あるいは中心的な意思決定者としての習氏を支えるための何らかの新しい組織を構築するかもしれない」と述べた。
アジア社会のニール・トーマス氏は習氏が軍指導部の刷新を望んでおり、来年の共産党大会まで「中央軍事委の欠員補充に適した候補者を徹底的に精査する」のを待つ可能性があるだろうと述べた。
アナリストによると、人民解放軍はそれまでの間、習氏が掲げる野心的な近代化目標を推進し続けるだろうという。
中国は何十年も戦争をしていないが、地域的な海域争いや台湾を巡ってますます強硬姿勢を強めている。中国政府は昨年末、台湾周辺でこれまでで最大規模の軍事演習を実施した。
アナリストによると、トランプ米大統領の関心が他に向いており、台湾は28年に選挙を予定している状況で、習氏は「内部を掃除する」時間があるという。
「習氏は人民解放軍の最高幹部を徹底的に一掃しようとしており、台湾に対して大規模な軍事衝突を当面検討していないことを示唆している。しかし、習氏の取り締まりはより有能で忠実な将軍たちを引き上げ、将来的にさらに大きな脅威をもたらすような体制を作り上げるのを目的としているのだ」とトーマス氏は指摘。「習氏は中国共産党と人民解放軍が政治的に忠実で思想的に献身的な存在であることを確実にするためならどんな手段でも講じるだろう」