
Robyn Mak
[香港 21日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 中国で設立され、現在はシンガポールに本拠を置く人工知能(AI)スタートアップ企業Manus(マヌス)を米メタ・プラットフォームズMETA.Oが20億ドル(約3170億円)超で買収したことに中国政府が困惑している。マヌスは汎用AIエージェントの開発を手がけている。この動きは昨年12月下旬に明らかになった。当局が人材流出、特にAIのような戦略的技術分野での流出を懸念するのは当然だ。一方、創業者が中国にとどまれば解決困難な価格競争、資金や半導体の不足に翻弄されるリスクもある。nL6N3Y005F
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マヌスはわずか数カ月の間に中国で最も注目されるAI企業の一つから、話題の買収対象企業へ変貌を遂げた。昨年3月に当時設立から3年を迎えていたマヌスは、求人応募書類のスクリーニングやランク付け、スプレッドシート、ウェブサイト、詳細な調査レポートの作成といった複雑なタスクを処理できる世界初の汎用AIエージェントと称するサービスの動画を公開して一躍注目を集めていた。
ブルームバーグは昨年4月、マヌスが米ベンチャーキャピタルのベンチマーク・キャピタルが主導する資金調達で7500万ドルの資金を調達し、評価額が5億ドルとなったと報じた。一方、中国メディアはマヌスが中国本土の従業員の大半を解雇し、本土でのサービスを停止し、国内の交流サイト(SNS)から全てのコンテンツを削除したと報じた。これらは全て、現在拠点を置くシンガポールへの大規模な移転を進める一環だった。
マヌスが例外的な存在である可能性は、中国当局にとってほとんど慰めにならないだろう。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は今月、中国当局が既に中国で開発されたAI技術を特定し、輸出管理リストへの追加を検討し始めているとの関係者の話を報じた。
その背景には、現実的な理由もある。中国のITアナリストで、ハロー・チャイナ・テック創業者のポー・ザオ氏は、現行の輸出管理は中国のAI新興企業ディープシークが開発した生成AIモデルのような中核技術を対象としており、AIアシスタントのような分類が難しいソフトウエアは規制のグレーゾーンに置かれていると分析する。
こうした新興技術の明確な規則とガイドラインの確立は理にかなっている。
しかし、自社の生成AIモデルを持たないマヌスの事例は、革新的な応用技術が世界最大級のIT企業からも熱望されていることを示している。マヌス買収が中国政府の承認を得るかどうかは、中国の同業他社から注視されるだろう。
中国では起業家が破滅的な価格競争に直面し、消費者や企業のAI導入意欲は限られ、規制は不透明になっている。かつてスタートアップ企業の主要支援源となっていた外国の投資家は急減し、米国による中国への半導体輸出規制も打撃を及ぼしている。
こうした状況が相まって、かつて豊富に存在していた中国のユニコーン企業群は減少傾向にある。中国の習近平国家主席も2024年、評価額が10億ドル超のスタートアップ企業が減った理由を問いただしていた。
この疑問に対し、マヌスは明らかに気まずい答えを出した格好だ。
●背景となるニュース
*中国商務省は今月8日、関連部門と連携してメタによるAIスタートアップ企業マヌスの買収を審査・調査中だと発表した。
*ロイターは昨年12月31日、情報筋の話としてマヌスの評価額が20億―30億ドルと報じていた。
*中国商務省の報道官は記者会見で、外国投資、技術輸出、外国へのデータ移転、買収などを実施しようとする企業は中国の法律・規制を順守しなければならないと語った。
*メタの広報担当者はブルームバーグに対して「(買収)取引完了後にマヌスの中国の所有権益は継続しておらず、同社は中国でのサービスと事業を停止する」とコメントした。
*英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は今月6日、関係筋2人の話として、中国商務省がマヌスの従業員と技術のシンガポール移転、およびその後のメタへの売却が中国の法律に基づく輸出許可を必要とするかどうかの審査を始めたと報じた。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)