
Eduardo Baptista Fanny Potkin
[北京/シンガポール 27日 ロイター] - 中国の国有防衛大手、中国兵器工業集団(ノリンコ)は2月、時速50キロで自律的に戦闘支援任務を遂行できる軍用車両を発表した。この車両には中国の生成AI(人工知能)開発企業、ディープシークのAI技術が搭載されている。
ロイターが数百件の研究論文や特許、調達記録を精査したところ、中国政府が軍事優位性を得るために体系的にAIを活用しようとしている実態が浮かび上がった。
中国の次世代兵器システムの詳細や、配備の規模は国家機密となっている。だが、調達記録と特許からは、自律的な目標認識や戦場でのリアルタイムの意思決定支援などの能力が進展したことがうかがる。
ロイターは全ての製品が実際に製造されたかどうかを確認できておらず、特許が必ずしも運用技術を示すわけではない。ただ、論文や入札書類、特許によると、中国人民解放軍と関連組織は、米国が中国への輸出を規制している対象を含めた米半導体大手エヌビディアの製品の使用と調達を継続している。
ロイターは、米政府が規制を課す前にこれらの半導体が中国に備蓄されていたかどうかを特定できなかった。文書には使われたハードウエアの輸出時期が明記されていないためだ。
直近では今年6月に出願された特許でも、軍事関連研究機関による使用が確認されている。米商務省は2022年9月、エヌビディアの人気半導体「A100」と「H100」の中国への輸出を禁止した。
エヌビディアの広報担当者、ジョン・リッツォ氏はロイターに対し、エヌビディアが過去に販売した製品の再販を追跡できないとしながらも「少量の中古製品を再利用しても新たな機能を使うことはできず、国家安全保障上の懸念も生じない。規制対象製品を軍事用に使うことはサポートやソフトウエア、保守がなければそもそも不可能だ」とコメントした。
米財務省と商務省は、ロイターの調査結果に関する質問に回答しなかった。
米首都ワシントンを拠点とする防衛政策シンクタンク、ジェームズタウン財団のサニー・チャン研究員は、2025年の半年間にわたって人民解放軍の調達網が発行した数百件の入札書類を分析した結果、中国軍が25年までに華為技術(ファーウェイ)のAI用半導体などの国産ハードウエアだけを用いると主張している請負業者の利用を増やしていると指摘した。
これは、中国政府が国内企業に対して国産技術を使うように促すキャンペーンの実施時期と一致している。
中国の特許当局に提出された調達通知と特許をロイターが調べたところ、人民解放軍の関連組織によるファーウェイ製半導体の需要と使用が確認された。ただ、ジェームズタウン財団が閲覧したすべての入札情報を検証することはできなかった。
ファーウェイは自社半導体の軍事利用についてのコメントを拒否した。中国国防省、ディープシーク、ノリンコは軍事用途でのAI利用に関するコメント要請に応じなかった。ロイターが入手した特許や研究論文を提出した大学や防衛企業も質問に回答しなかった。
<ディープシークに依存>
ロイターは、今年に入ってから出された人民解放軍関連機関の入札書類12件を確認した。そこにはディープシークのAIモデルの使用が明記されていた一方、主要な国内競合製品である電子商取引(EC)大手アリババ・グループのAIモデル「Qwen(通義千問)」に言及したのは1件だけだった。
アリババは、Qwenの軍事利用に関するコメント要請に応じなかった。
ジェームズタウン財団によると、ディープシーク関連の調達通知は2025年に入ってから増加しており、人民解放軍のネットワークで新たな軍事用途が定期的に登場している。
ディープシークが人民解放軍に支持されている背景には、中国が「アルゴリズム主権」と呼ぶ戦略を進めている事情がある。この戦略では西側諸国の技術への依存を減らす一方で、極めて重要なデジタルインフラへの統制を強化しようとしている。
米国防総省は人民解放軍のAI利用についてのコメントを控えた。
米国務省の報道官はロイターに対して「ディープシークは中国軍と中国の諜報活動に対して自発的な支援を提供しており、それを今後も続ける可能性が高い」とした上で、米国は「信頼できる外国諸国と協力して米国のAI技術に関する大胆かつ包括的な戦略を推進する一方で、敵対勢力への技術流出を防ぐ」との声明を出した。