
Jonathan Guilford
[ニューヨーク 23日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米電気自動車(EV)大手テスラTSLA.Oは、スピードを加速して危うい道からの最後の出口を通り過ぎた。テスラは22日に市場予想を上回る業績を発表した。しかし、ここ数年で最も好調だった成長は米国でEV購入の顧客に対する補助金制度の期限切れが迫っている事情に大きく依存している。
この補助金制度は業界全体にとって追い風であり、ライバル企業もまた収益を確保した。後に残っているのはイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が賭けている「完全自動運転」という一か八かの戦略だ。
テスラの2025年第3・四半期の売上高は前年同期比12%増の280億ドルで、ビジブル・アルファのデータによるとアナリストらの市場予想を6%上回った。テスラが最も重要な業績指標としている排出権販売を除いた調整後の自動車事業の粗利益率は15.4%で安定しており、数年にわたる低迷から回復しているように映る。納車台数は前年同期比7%増で2023年以来の高い伸び率を示した。
最悪期は過ぎたように思えるかもしれない。ただし、問題が一つある。テスラは今回の好調な四半期業績を上げるためにほとんど何もしなかった。コックス・オートモーティブによると、米国のEV販売全体は第3・四半期に前年同期比で30%増と急増しており、トランプ米政権が補助金制度を廃止する前にEV購入に対する税控除を得ようとする消費者の駆け込み需要が背景にあった。
ライバル企業も恩恵を受けており、フォード・モーターF.N やゼネラル・モーターズ(GM)GM.NはEV販売台数で上回るテスラとの差をさらに縮めた。
また、利益は3分の2未満に落ち込んだ一方で、営業費用が50%も跳ね上がった。長らく待ち望まれていた「手頃な価格の」新型車の発表は既存モデルのわずかな値下げに過ぎず、市場拡大にほとんど寄与していない。
テスラの低迷は底を打ったかもしれない。だが、「車を売る」という平凡な事業に関する限り、ピークを過ぎた可能性もあるだろう。それも当然だろう。テスラはかつて年間2000万台の販売を目指していた。マスク氏に対する新たな報酬パッケージはそうした目標を事実上放棄し、テスラの創業からみてその目標台数に達すれば数十億ドルの報酬をマスク氏に与えることになっている。
電力網向けの大型バッテリーやドライバー向けサービスなどその他の事業の成長ぶりは確かに印象的だが、1兆4000億ドルという企業価値を支えるのには十分でない。
これ以外はいつものように、マスク氏の壮大な計画次第だ。全ての車両を自動運転の運転手に変え、人型ロボット「オプティマス」を工場に導入するという構想だ。マスク氏は22日、「ロボット部隊」を構築して自らが支配するべきだと語り、一部の人々をおびえさせた。
とはいえ、こうした考え方のいくつかは以前ほど突飛でなくなりつつある。米IT大手グーグルの持ち株会社アルファベットGOOGL.Oの傘下企業ウェイモは既に自動運転タクシー「ロボタクシー」事業を展開しており、GMも22日、28年に「目を離しても運転可能な」システムを投入すると発表した。
違いはアプローチにある。ライバル企業は道路を走行するために追加的なセンサーを活用して車載カメラの性能を向上させているが、マスク氏はより安価なカメラだけの方式にこだわっている。
これは解決するのが技術的に非常に難しい課題だが、マスク氏は投資家と電話会議した際、テスラのタクシーはまもなく人間の運転手を乗せずに運行できるようになると述べた。
マスク氏は実際に、自動運転の未来を見越して生産を加速させると豪語している。今や彼の戦略は的中しなければならない。その他の選択肢は全て、バックミラーの中で後方に消えつつある。
●背景となるニュース
*テスラが22日発表した第3・四半期決算は、総売上高が281億ドルで、アナリスト予想を約6%上回った。nL6N3W311V
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)