
James Oliphant
[ワシントン 8日 ロイター] - トランプ米大統領は9月に反ファシズム運動「アンティファ」を左翼の政治的暴力を支援する「国内テロ組織」に指定する大統領令に署名した。
以下はアンティファに関する背景情報と、支持者取り締まりの実行が困難とみられる理由。
◎トランプ氏はなぜ今動いているのか
トランプ氏は、9月に保守活動家のチャーリー・カーク氏が殺害された後、暴力を煽っていると自身が非難する複数の左翼団体に対して行動を起こすことを誓った。
アンティファとカーク氏の暗殺を結びつける公式の証拠はない。タイラー・ロビンソン容疑者の動機は今も捜査中だ。
それでもトランプ氏はアンティファを「病的で危険な過激左派の災厄」と表現し、資金源の摘発を誓っている。
◎アンティファとは何か
アンティファ(「反ファシスト」の略)は従来の意味での組織化された政治団体ではない。2020年の議会調査局報告書によると、明確な構造・指揮系統・指導者を持たない分散型の運動だ。
政治的過激主義の専門家やクリストファー・レイ元連邦捜査局(FBI)長官はアンティファについて、結束した組織というより、反ファシズム・反白人至上主義のイデオロギーと捉えるべきだと主張している。したがって、その支持者は米合衆国憲法修正第一条が定める言論の自由の保護を受ける。
◎運動の起源
アンティファの起源は20世紀初頭の欧州における反ファシスト運動に遡る。2016年にトランプ氏が大統領選に勝利した後、米国内でさらに可視化されるようになった。
◎運動の構造
この運動は、互いに独立した地域グループの緩やかな集合体として機能している。ただし、対面または暗号化メッセージアプリを通じて計画・戦術・資源を共有する場合がある。
ロイターの報道や戦略国際問題研究所(CSIS)の2020年報告書によれば、アンティファの活動家は「アフィニティ・グループ」と呼ばれる3人から8人の非公式な単位で仲間をつくる。抗議活動中にお互いを信頼し、保護し合う集団だ。
◎運営方法
アンティファ支持者は「直接行動」を信奉する。これは街頭デモの形をとることもあれば、一線を越えて警察車両への放火や窓ガラスの破壊といった暴力行為に発展することもある。CSISの報告書によれば、活動家は黒服を着用し顔を覆うことが多い。
オンラインでは、右翼団体を追跡したり、右翼の過激派と見なす人物の個人情報を暴露したりすることもある。
◎アンティファは暴力事件に関与したか
米法執行機関によると、アンティファに関連するテロ事件は米国で一度も発生していない。トランプ氏が最初にアンティファを国内テロ組織に指定しようとしたのは、2020年に黒人のジョージ・フロイドさん殺害に対する抗議活動が広がった際だった。
アンティファが関与した最も悪名高い事件は、20年8月にオレゴン州ポートランドで発生した。アンティファ支持者を自称する男が、極右団体「パトリオット・プレイヤー」のメンバーを銃殺した事件だ。男は逮捕を試みた連邦および地方の法執行官によって射殺された。
最近では、サンディエゴの陪審が今年初め、21年の街頭デモに端を発した事件で、暴動陰謀罪で2人の男を有罪とした。検察側は両名をアンティファのメンバーと認定した。
◎トランプ氏の大統領令は合法か
米政府は現在、純粋な国内組織をテロ組織に指定していない。これは憲法による保護が大きな要因だ。
しかし司法省高官は、トランプ氏の大統領令により広範な捜査・監視権限が解放されると述べた。
政府は米政治に流入する外国資金に焦点を当て、外国の銀行口座との関連性を追及していると、計画に詳しいホワイトハウス関係者がロイターに明かした。
法律の専門家は、特定のイデオロギー支持が米国法で一般的に犯罪とみなされないことを踏まえ、「国内テロ組織」への指定は法的に、そして憲法上疑わしく実行困難で、言論の自由に関する懸念を引き起こす可能性があると指摘している。