Carey L. Biron
[ワシントン 1日 トムソン・ロイター財団] - トランプ米大統領が打ち出した「人工知能(AI)行動計画」は、政府の力をフル活用してデータセンターなどのAI関連インフラ整備を進めことを目指している。だがそうしたインフラ設置が予定される地域社会では、組織的な反対運動を通じて地元への悪影響を抑える取り組みが広がりつつある。
トランプ氏はAIを国家安全保障の重要な要素と定める大統領令に署名し、米国全土でAI開発を促進するため民間企業から5000億ドルの投資を呼び込む「スターゲート計画」を発表。これに続いて規制緩和や許認可手続きの迅速化、インフラ用地提供などによってAI分野で米国の主導的な地位を確立するための行動計画を策定した。
しかしデータセンター建設対象となった地域社会は、渋滞や騒音、エネルギー料金高騰といった事態を懸念。同じ問題を抱える各地域の連帯が拡大し、反対運動の組織力が強まり続けている。
調査機関のデータセンター・ウオッチによると、過去2年で24州の140を超える団体がデータセンター建設反対運動に従事し、総額640億ドル相当のプロジェクトを中止もしくは延期に追い込んだ。
環境保護を提唱する非営利団体サザン・エンバイロメンタル・ロー・センターの上席弁護士、モーガン・バルター氏は、トランプ政権の行動計画はAIの規制手続きの優先度を軍事インフラ並みに位置づけていると指摘。地元政府は本来、ゾーニングや用地利用許可権を使ってデータセンター建設承認の是非を決められるが、トランプ政権の行動計画はそうした決定に必要な情報を奪い去ることになると訴えた。
バルター氏は、行動計画によって州や自治体は、データセンター建設の制限に役立つ強力な条例を採用する意欲が弱められ、住民は反対運動に不可欠な情報から遮断されると説明。適切な情報がなければ、地元政府に正しい決定をするよう求めるのがより難しくなると付け加えた。
<歓迎と懸念>
米国では近年の建設ラッシュのため、世界総数の半分弱に当たる約5400のデータセンターが存在する。
アマゾン・ドット・コムやグーグル、メタといった巨大IT企業だけでなく、それほど有名ではないQTSなども建設に加わり、内務省は建設用地になり得る土地の選定を進めている。
データセンターは新規雇用創出や経済成長につながることから、誘致に積極的な自治体は少なくない。業界団体データセンター・コアリションが2月に公表した報告書に基づくと、データセンターは2023年に470万人の雇用を生み出し、国内総生産(GDP)に7270億ドル相当寄与したという。
ただ熱烈歓迎という地域ばかりではない。
中西部インディアナ州に拠点を置き、公共料金の監視を手がける非営利団体シチズンズ・アクション・コアリション(CAC)のプログラムディテクター、ベン・インスキープ氏は、交通渋滞から水利用に伴う汚染、エネルギー料金上昇までさまざまな懸念があると語る。
インスキープ氏は、地元の不満をもたらしている原因の1つとして、事業者が最後の最後までデータセンター建設情報を秘密にしている点を挙げ、似たような経験をしてきた地域を探して互いに連携する事態につながっているとの見方を示した。
CACが調査したインディアナ州における40件のデータセンター建設計画のうち、地元の反対で既に6件が撤回されたという。
同州北部在住で昨年、元ゴルフ場に大型データセンターを建設する計画の中止を求める運動に参加したウェンディー・ライゲルさんは「ゴルフ場が重厚産業に変わることなど考えられない」と述べた。事業者は申請を取り下げた後に幾つかの近隣地域での建設を模索しようとしているものの、いずれも反対運動に直面しているという。
ライゲルさんは、反対運動を成功させる鍵は何度も集会に赴き、自分の意思を明確に示し、近所の住民や決定権を持つと見込まれる人々に働きかけることだと強調した。
<法的な対応>
地方レベルの法整備が進んでいることも、地元の懸念解消に役立っている。
6月には西部オレゴン州で、電力使用者についてデータセンターと一般の消費者を区別する制度が導入された。データセンターによる大規模な電力消費を住民が負担しなければならないのではないかとの不安が背景にあった。
オレゴン州市民公益委員会のエグゼクティブディレクター、ボブ・ジェンクス氏は、電力消費のコストを全ての利用者で均等に負担する以前の方式は、利用者の需要がほぼ同じペースで増加していた時代には合理的だったと話す。ところが、2016年以降同州の家庭用電力需要が3.5%の増加にとどまった一方、データセンターを含む産業用電力需要は過去5年で95%も跳ね上がった。
過去5年で州の電力料金は約50%も上昇し、昨年料金未払いのために電力供給を停止された家庭利用者は過去最多に上っている。
南部バージニア州では、住民の行動が選挙に影響を与え、一部のデータセンター計画の規模が縮小した。
同州プリンス・ウィリアム郡に住むビダ・キャロルさんの話では、長年にわたって電力料金の上昇や送電線敷設が懸念されてきた2100エーカー規模のデータ複合施設建設計画に対して8月に住民側が法的勝利を収めた。「この問題が解決できたかと言えばノーだが、市民の力でここまで変化をもたらせたことに明るい展望を持っている」という。