Gram Slattery Jonathan Landay Andreas Rinke
[ワシントン 28日 ロイター] - 8月6日、モスクワでロシアのプーチン大統領と3時間にわたり会談した米国のウィットコフ中東担当特使は、会談を終えるとトランプ米大統領に重大ニュースを伝えた。ロシア大統領はウクライナ戦争を終わらせるため、領土面で大幅な譲歩をする用意がある、というものだった。
事情の説明を受けた関係者2人によると、ウィットコフ氏の報告を受けたトランプ大統領は、特使がもたらした「大きな進展」を称賛し、プーチン大統領との歴史的な首脳会談の開催に同意した。領土交換が議題に上ることが示唆された。
しかし、外交はすぐに混乱に陥った。
事情に詳しい情報筋によると、翌7日の欧州各国首脳との電話会談で、ウィットコフ氏は、ウクライナがドネツク州とルガンスク州を割譲するのと引き換えに、プーチン大統領はウクライナのザポロジエ州とヘルソン州から撤退する用意があることを伝えた。
この提案は電話会議の出席者の多くを驚かせた。プーチン大統領の姿勢について、それぞれの国が行っていた評価から大きく外れていたからだ。米欧の当局者を含む、協議に詳しい関係者4人が明らかにした。
だがウィットコフ氏はその翌日、説明を翻した。情報筋の一人によると、ルビオ米国務長官が招集した欧州各国の国家安全保障顧問との電話会議で、同氏はプーチン大統領がこの2つの地域からの撤退を実際には提案していないと述べたという。
この会議での米政府高官側の説明では、プーチン大統領が米側に示唆した「譲歩」内容は、ザポロジエとヘルソンをロシア領として正式に承認するよう西側諸国に要求しないという、ずっと控えめなものだったという。別の米政府高官が明らかにした。
ロイターはモスクワでの会談で何が話し合われたかを独自に確認することはできなかった。
外交経験のない不動産王ウィットコフ氏はプーチン氏と会談した際、慣例に従わず米国務省の記録係を同席させなかったため、プーチン大統領の具体的な提案の記録は残っていないと、政権内部の動向に詳しい関係筋は述べた。
ロイターは、米欧の政府高官12人以上に取材。和平合意に至らず終わった、8月15日の米ロ首脳会談までの外交の一端が明らかになった。取材で浮かび上がったのは、従来の外交ルートや検討プロセスを経ず、腹心や直感に頼って外交政策の決定を迅速に進めようとする米大統領の姿勢だった。
トランプ政権一期目で国務省のウクライナ担当特別代表を務めたカート・ボルカー氏は、米ロ首脳会談が行われたのにもかかわらず、ウクライナ戦争は全く終結に近づいていないと指摘する。
「トランプ氏就任前と全く状況は変わらない。ロシアの立場にも一切変化がない。戦争は激しさを増している。プーチン大統領に戦争を止めさせる明確な戦略がわれわれにはない」と、同氏は述べた。
ホワイトハウスのケリー報道官は、この記事の内容について具体的にコメントしなかったが、「ジョー・バイデン氏の弱い政権は外交政策を理解しておらず、彼の『伝統的なプロセス』がロシアのウクライナ侵攻を許した」と指摘。
「対照的に、世界の指導者たちは、トランプ大統領が2週間で、バイデン氏が3年半かけて成し遂げたよりも多くの平和への進歩を遂げたと理解している」と述べた。
ロシアは28日未明、ウクライナに対し、ミサイルとドローン(無人機)による大規模な攻撃を実施した。米政権のケロッグ特使(ウクライナ・ロシア担当)は、トランプ大統領の和平努力を損なうものだと批判した。
関係筋によると、ケロッグ氏を含む一部の米当局者は、米国が当時ようやく対ロシアで強硬姿勢に転じつつあっただけに、ウィットコフ氏がモスクワでのプーチン氏との会談後に矛盾する新情報を議論に持ち込んだことに不満を抱いていたという。
モスクワでの会談前、米政権はプーチン大統領がウクライナ戦争の終結に同意しない場合、8月8日にロシアに対し新たな制裁措置や関税を課すと示唆していた。だがその期限は過ぎていった。
<大西洋をまたぐ混乱>
トランプ大統領は、ウィットコフ氏のような信頼する顧問に頼る一方で、米国の国家安全保障のエリートを積極的に解任し、国防総省や国務省、国家安全保障会議のロシア・ウクライナ担当の専門家を解雇または異動させた。
大統領の親友であるウィットコフ氏は、その仕事に対する倫理観を称賛されている。しかしロイターが以前報じた通り、一部の米国および欧州当局者は、ロシアが交渉の場での同氏の経験不足を利用しているのではないかと懸念している。
8月6日のモスクワでのプーチン氏との会談の直後、トランプ氏とウィットコフ氏はともに突破口が開かれたとの考えを示した。その翌日、トランプ氏はプーチン氏と早期に会談する可能性があると述べ、その後、戦争を終わらせるには領土の交換が必要だと述べた。
欧州当局者らの間に警戒感が走った。トランプ政権がプーチン大統領に甘い姿勢で臨めば、痛みを伴う譲歩をウクライナに強いることになるかもしれないと懸念したのだ。
複数の米国および欧州当局者によれば、欧州側はその後数日間、プーチン大統領がウィットコフ氏に正確に何を言ったのかを米国側から聞き出そうと努めたという。
米当局者と関係筋によると、ケロッグ氏やルビオ氏を含む一部の高官も、当初はウィットコフ氏との会談の詳細の一部について知らされていなかった。
欧州の一部の当局者はトランプ大統領の外交努力を公に称賛していたが、内心では懸念する者も多かった。
一方で、ウクライナ当局者は8月13日、ドイツ政府高官に対し、プーチン大統領は10月か11月にロシアが計画する大攻勢までの時間稼ぎとして、トランプ大統領との首脳会談を利用する考えであることを示す情報を得たと伝えた。独政府関係者が明らかにした。
独政府は追加の詳細を明らかにすることを拒否した。
<トランプ大統領の選択肢>
8月15日にアラスカ州アンカレッジで行われたトランプ大統領とプーチン大統領の首脳会談では目立った進展はなかった。
トランプ大統領は会談前の数日間、会談は合意に至る機会ではなく、外交プロセスの一歩と位置付けていると述べ、期待値を下げようとしていた。トランプ氏がウクライナを代表して領土に関する譲歩を示すことはなかったものの、会談後には、一時的な停戦は恒久的な平和の前提条件ではないと述べた。これはプーチン大統領の立場であり、欧州諸国のほとんどの首脳は支持していない。
欧州の同盟国はこの後直ちに、トランプ氏の次の一手にどう影響を与えるか戦略を練り始めた。
独政府報道官によると、18日にワシントンでトランプ氏と会談する予定だったウクライナのゼレンスキー大統領は、直前の週末に欧州各国首脳に同行を要請した。欧州首脳らはこれを受け、大統領執務室でトランプ氏とバンス副大統領がゼレンスキー氏と激しく口論する展開となった2月の大失敗の再現を避けるため、同行すべきか協議したという。
最終的に18日の会談は成功し、米欧協力の刷新を示すものとなったと、欧州の外交官数人が評価した。最も重要なのは、トランプ大統領と欧州各国首脳が、ウクライナに対する将来の「安全の保障」について正式に草案を作ることで合意したことだった。
それでも、戦争の終結は遠いようだ。
ラブロフ外相を含むロシア当局者は、ウクライナに外国軍を駐留させるような安全保障は受け入れないと明言している。トランプ大統領はプーチン大統領とゼレンスキー大統領の会談を求めたが、ロシア政府は短期的にはそのような首脳会談は実現しそうにないとしている。
前出のボルカー氏は、トランプ大統領は最終的にはより厳しい経済制裁とウクライナへの軍事支援を通じてプーチン大統領に強い圧力をかけることになると予想する。
「トランプ氏は『米国人はありとあらゆることを試してから、ようやく正しいことをする』というチャーチルの言葉を体現していると思う。トランプ氏には本当に選択肢がなくなるだろう」と述べた。