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〔焦点〕トランプ氏が医療費補助の審査停止、途方に暮れる元核施設労働者

ロイターAug 26, 2025 4:55 AM

Valerie Volcovici

- スティーブ・ヒックスさん(70)は、テネシー州にある「Y-12国家安全保障施設」と呼ばれる核施設に34年間勤務した。ここは1945年に広島に投下された原子爆弾のウランが濃縮された施設で、現在も米国の核兵器プログラムの重要施設となっている。
退職後、放射線被ばくに関連する2種類のがんと神経損傷を治療するために毎日30種類の薬を服用するようになったヒックスさんは、保健福祉省に対し、職務に関連したがんに罹患した何千人ものY-12従業員の医療費の支払いを求める請願活動を行っている。
「あそこでは良い暮らしをしていたが、こんなにも具合が悪い状態になったのは納得できない。あそこで働いていた人の中には、私よりも症状が重い人もいる」と、ヒックスさんはロイターに語った。
嘆願書の作成は複雑なプロセスだ。米政府が原子力関連施設での放射線被ばくに関連すると認めている22種類のがんであることを示すのに必要な証拠は数千ページに及び、作成に何年もかかる可能性がある。
だが今、ヒックスさんの請願活動は宙に浮いた状態になりつつある。保健福祉省がこれらの請求の審査を担当する諮問委員会を無期限に活動停止したためだ。同省関係者や、政権関係者18人への取材で明らかになった。
ヒックスさんが取りまとめている請願者の中に待つ時間がない人もいる。
ヒックスさんは以前、腎臓がんについては医療費の支払いを受けていたが、現在は皮膚がんの治療のための医療費支援を求めている。
トランプ大統領に投票したヒックスさんは、大統領のほか、テネシー州上院議員、そして主要な兵器施設を有する他の州の議員に数十通の手紙を送ったが、「何の返答もない」という。
同省の米疾病対策センター(CDC)は、この諮問委員会が活動停止になったことを認めたが、今後については詳細は明らかにしなかった。
CDCの広報担当者は、「放射線と労働者の健康に関する諮問委員会の会合は現在、未解決の事務処理のため中断されており、その解決に積極的に取り組んでいる」とコメントした。
ホワイトハウスは諮問委員会の現状についてコメントを控えた。
エネルギー省は声明で、核兵器の近代化に注力する中で、過去の過ちから学んでいるとした上で、「エネルギー省と国家核安全保障局(NNSA)は、過去の経験から学び、その学びを活かしてシステムと実務を改善し、可能な限り安全な作業環境を提供している」とコメントした。

<宙ぶらりんの状態に置かれた数千人>
冷戦以来、米国の380の核兵器施設では70万人以上が雇用され、軍事および民間の核計画のための放射性物質の採掘や輸送、処理に従事してきた。
2000年に可決されたエネルギー従業員職業病補償プログラム法は、エネルギー省および国防総省の原子力施設の労働者に15万ドルの一時金と医療保険の給付を支給する内容だ。高レベルの放射線被ばくに関連するがんと診断された労働者、または就業中にそのような被ばくがあったことを証明できる労働者が対象になる。
大統領が指名した医療専門家や科学者、元従業員からなる諮問委員会が、申請について公平な審査を行ってきた。
エネルギー省によると、米政府は昨年までに14万1000人の核兵器作業員に対し、250億ドル以上の補償金と医療給付金を支払った。保健福祉省は1月27日、トランプ大統領による連邦政府の合理化策の一環として、同諮問委員会の活動を無期限に停止した。同委員会はその時、核兵器製造施設およびウラン濃縮施設の元作業員からの請願書8件を審査中だった。
ロイターが取材した諮問委員によると、トランプ氏が方針を転換し、諮問委員会の設置に関する大統領令を更新しない限り、同委員会は早ければ9月にも永久に廃止される可能性があるという。
労働者団体はロイターに対し、今年中にさらに3件の請願書を提出する予定だと述べた。その中には、ヒックスさんがまとめた請願書も含まれている。これらの請願書はいずれも、数千人の元核施設労働者からの要求を代弁するものだ。諮問委員会の10人の委員のうち3人はロイターに対し、昨年12月以降会合を開いておらず、再開の可否や時期についても一切情報を受け取っていないと述べた。
「委員会の活動停止により、核施設労働者への補償手続き全体が事実上停止し、多くの人が切実に必要としている医療保障や認定を受けられなくなっている」と、アイダホ国立研究所で使用済み核燃料のオペレーターとして働いていたブラッド・クローソンさんは訴える。
「何千、何万もの人々が、このことで被害を受けたことをまだ証明できていない」

<危険な仕事>
引退した政治学教授のデニス・デガーモさんは、父親が進行性のがんで苦しみながら死ぬのを見届けた後、核関連施設の労働者とその遺族への補償を求める活動に関わるようになった。
父親は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)システムとナイキミサイルシステムの設計技師だったという。
「人生最後の6週間は、私たちでも父には触れることさえできなかった。骨が砕けてしまうから」と、デガーモさんはフロリダ州オーランド北部の自宅で話した。彼女の自宅オフィスには、冷戦時代の核関連の記念品や、嘆願書の裏付けとして掘り出した数千点もの文書が所狭しと並んでいる。
デガーモさんによると、手続きが一時停止された請願書3件が手元にあるという。1957年から90年まで核爆弾を製造したフロリダ州のピネラス核施設を含む施設の元従業員とその相続人、計2000人を代表するものだ。
「彼らは皆、忠誠の誓いを立てた。彼らは会社に対し、自分たちが何をしているか、誰と仕事をしているかを誰にも、たとえ家族にさえももらさないと、本当に約束していた」とデガーモさんは話し、「彼らが戦争に積極的に貢献したとは認められていないが、いわば陰の英雄だ」
前出のヒックスさんは、父親のジェームズ・リー・ヒックスさんの背中を見て育った。この父親はY-12の機械工として働き、1994年に退職。その1年後、骨髄性白血病と診断された。医師は、濃縮ウランへの被ばくが原因だっと説明した。ロイターが閲覧した記録によると、父親は2008年に74歳で死亡した。
より厳しい安全プロトコルが導入される2000年より前は、ヒックスさんは濃縮ウランを機械に装填する際には日常的に素手でウランを抱え、施設を清掃する際も安全検査のために研究所にサンプルを提出することもなかった。
ヒックスさんは、医師から濃縮ウランへの被ばくが原因だと言われた腕のがんの傷跡を指差した。
「健康への影響があるかもしれないことは分かっていた」が、米国の安全保障に貢献したいという思いがあったし、Yー12は給料も良かったと振り返る。「自分は大丈夫だろうと思っていたが、そうではなかった」

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