Pranav Kiran
[トロント 25日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米企業の最高財務責任者(CFO)の行動と、人気歌手テイラー・スウィフトさん、スーパーヒーロー映画には、ある種の共通点がある。それは世界中の人々を引きつける文化的な魅力だ。中でも近年は米企業の自社株買いという慣行の存在感が大きくなってきた。世界的な基準とは対照的に、米企業は自社株買いを通じて発行済み株式を減らし、株主のリターンを高めることに熱心だ。トランプ米大統領の政策が国際貿易に緊張をもたらしているものの、この自社株買いが「米国例外主義」の足場を強化している。
ある国が軍事力を行使せずに国際的な影響力を高める手段を「ソフトパワー」と1980年代に名付けたのは政治学者のジョセフ・ナイ氏だった。ナイ氏は、冷戦終結が見え始めて保護主義に傾いていた当時の米国世論に対する反論としてこの考えを提示し、引き続き国際社会に関与する重要性を説いた。具体的なソフトパワーとしては人気の音楽や映画など大衆メディアの輸出のほか、外国人留学生にも開かれた大学、対外支援などが挙げられている。
トランプ政権がそうした取り組みを縮小し、細かな世論誘導から露骨な強制へと対外姿勢を変化させているにもかかわらず、ウォール街は現在もこの種の魅力を堅持している。アポロ・グローバル・マネジメントのトーステン・スロク氏の分析では、今や米国株の20%は外国投資家が保有し、その規模は過去15年で6倍も増えて19兆ドルに達したという。資金が流入した理由は誰にでも分かる。この間、S&P総合500種の上昇率はずっと他の国・地域の株価指数を上回ってきたのだ。
当然ながら米国株の好調は、一握りの巨大テック企業の高い収益力に負う部分が大きい。しかし、それぞれ1株は企業のキャッシュフローの分配請求権である以上、株式総数が減れば残りの取り分は拡大する。そして昨年だけでS&P総合500種構成企業は総額1兆ドル弱の自社株買いを実施し、長らく英国企業よりも積極的に発行済み株式を削減してきた。シュローダーズの調査に基づくと、欧州連合(EU)と日本は2005年以降むしろ発行済み株式が増えている。米国ではバイオテクノロジーなどのセクターで急成長を続ける企業が株式発行を通じた資金調達に依存している状況でも、発行済み株式総数は減少した。
自社株買いは理想的な形で、投資家に2種類の強いシグナルを発信している。1つ目は経営陣が企業価値を損なうようなプロジェクトに無駄な投資をするより株主還元を優先する姿勢。もう1つは当該企業の株価が過小評価されている可能性があるということだ。
自社株買いの文化は輸出されるかもしれない。ゴールドマン・サックスによる昨年の調査で判明したように、自社株買いを実施している欧州企業の割合が従来の約20%から足元で60%前後まで高まっているのは注目に値するだろう。英国では、大手企業のおよそ半数が過去12カ月で少なくとも発行済み株式の1%を買い戻したことが、シュローダーズのデータで分かっている。とはいえ今のところ、自社株買いのトレンドは米国の専売特許と言えそうだ。
●背景となるニュース
*S&P総合500種指数.SPX構成企業による昨年の自社株買いは総額9425億ドルで、前年比18.5%増加した。S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが3月19日に発表した。今年1-3月の自社株買いは前年同期比23.9%増で、四半期ベースでは過去最高の2935億ドルに達した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)