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COLUMN-〔BREAKINGVIEWS〕「積み替え」巡る攻防、トランプ関税で原産地証明が焦点に

ロイターJul 23, 2025 7:01 AM

Una Galani

- この製品の産地はどこか――これは、税関職員がすべての貨物に対して確認すべき最も重要な質問の一つだ。「それは何か」、「価格はいくらか」と並んで不可欠な情報だ。トランプ米大統領の貿易戦争は、米国が輸入する3兆3000億ドル規模の製品の原産地についての質問を泥沼化させつつある。

トランプ氏が米国の貿易相手に課す関税は国ごとに大きく異なる。英国に対する10%の最低関税からブラジルに対する50%の懲罰的関税まで関税率には開きがあり、大きな差益を生む可能性が出ている。特に中国の輸出業者にとって、自国製品の原産地を偽って申告する大きなインセンティブが生じている。

トランプ氏は、関税の低い国を経由して「積み替え」られた商品には高い関税が課されるとして、このリスクに対抗しようとしている。例えば、米国はベトナム原産の製品に20%の輸入関税を課しているが、東南アジア諸国を経由する製品にはその2倍の関税を課す。

積み替えは新しい言葉や概念ではない。貿易においては単純に、飛行機、列車、貨物車などの乗り物間で商品を移動させることを意味する。しかし、トランプ氏はこれを関税逃れや不正行為の略語として使っている。

トランプ氏が懸念する理由は十分にある。彼が2018年に中国に関税をかけたときに何が起こったかを考えてみよう。17年から24年の間に中国から米国への輸入品の割合は8%ポイント減少し、13.4%となった。しかし、世界の商品輸出総額に占める中国のシェアは同期間に約1.5%ポイント上昇し、14.2%となった。その理由のひとつは、一部の中国メーカーが電子機器から靴に至るまで、他国、特にメキシコやベトナムを経由させることで、米国の関税を回避したことだ。

<揺らぐ貿易ルール>

この問題の正確な規模は、経済学者の間で激しい議論と研究の対象となっている。トランプ氏の新たな貿易体制は、この問題をさらに複雑にしている。従来の国際貿易は、標準関税を設定したうえで、特定国あるいは地域との協定に基づき優遇措置を与える形をとっていた。

しかし新体制では、米国はもはや標準的な非特恵関税も、世界最低水準の関税制度も持たない。その代わりさまざまな国から到着する商品の関税は、原産国と米国が認めた国によって40%ポイントも変わる可能性がある。米政府が半導体と医薬品に適用しようとしている別途の課税は、さらに複雑さを増すだろう。

このため、通関当局が商品の原産地を見極める作業の重要性が一段と高まっている。いわゆる「原産地規則」は、各国が統計データを収集しやすくするために導入されたもので、二国間および地域間の自由貿易協定を促進するためにこの30年で急速に広まった。これらのルールは、アンチダンピング措置など、各国が他の政策を実施する際にも役立つとされている。

最も一般的な規則は「最終的な実質的変更」の概念に基づく。つまり、製品の性質が最後に大きく変化した国が原産国となるというものだ。

この原則は一見単純に思えるが、実際には非常に複雑だ。例えば衣料品をみてみると、中国製のシャツをハノイに運んで「ベトナム製」とラベルを付け、米国に輸出してベトナムの低関税を適用する行為は、多くの通商法専門家が詐欺だとみなすだろう。しかし、ベトナムで衣料を製造するナイキNKE.N、ルルレモンLULU.O、ファーストリテイリング9983.Tのユニクロが、中国から染料、綿、ボタン、ファスナーなどを調達している場合はどうか。商品の「本当の出自」を特定するのはますます困難となる。

米商務省は、ミックス冷凍野菜とクッキーの例でこの違いを説明している。複数国で生産された野菜を一国で混合・冷凍するだけでは「実質的変更」はなく、各原料の原産地表示が必要だ。一方、砂糖や乳製品、ナッツを用いてクッキーに加工する場合は、焼成・加工を行った国が原産国となる。

今日のサプライチェーンは、よりグローバル化し、複雑化している。フォード・モーター F.N 、ゼネラル・モーターズ GM.N 、ステランティス STLAM.MI の自動車では、原産地は構成部品の価値に基づいて決まる。例えば、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の適用を受けるには、自動車生産者が購入する鉄鋼とアルミニウムの少なくとも70%が北米で生産されたものでなければならない。

関税はまた、製品の米国産の部分の割合によっても異なる。米税関・国境警備局によると、輸入額の少なくとも20%が米国産である場合、米国産部品には相互関税は適用されない。

商品の原産地を正確に確認するには、国際的な協力が欠かせない。マレーシア、タイ、韓国などは、商品ラベルの偽装を取り締まる体制を強化しつつあり、米税関当局を支援する構えだ。これは、安価な中国製品が自国産業を空洞化させる懸念とも関係している。

しかし、トランプ氏が中国をサプライチェーンから締め出すことを本気で目指すならば、こうした協力体制の支持も揺らぐ可能性がある。野村証券のソナル・ヴァルマ氏とシー・イン・トー氏の分析によれば、米国がカンボジアから輸入する製品の合計額の約29%、ベトナムからの輸入の合計額の約19%は中国製部品の価値だ。また、中国企業は東南アジア各国の工場にも多く出資している。

<オウンゴールのリスク>

原産地規則の普及にもかかわらず、世界貿易機関(WTO)は、加盟国が原産地にかかわらず輸入品を平等に扱うという原則である「最恵国待遇」のもとで、世界貿易の74%がまだ動いていると推定している。現時点では、他の経済圏は米国と逆方向に動いているように見える。欧州連合(EU)とインドネシアは自由貿易協定の最終合意に向けた協議を進めており、中国はアフリカ53カ国に対して関税ゼロ措置を拡大している。EUとインドの間でも貿易協定の協議が9月に再開される予定だ。

トランプ氏が米国の貿易赤字縮小、歳入拡大、中国の孤立化という目標を本気で実現したいのであれば、中国に高関税を課し、その他の国には一律の低関税を適用するだけでよかったはずだ。実際、そのような形に収れんする可能性も残っている。トランプ氏は16日、150超の「小国」に対し、関税率を10%または15%とする可能性を通知する書簡を送ると述べた。しかし、それでもなお40カ国以上が大きく異なる関税率を課される可能性がある。貿易における新たな禁句「積み替え」という言葉は、今後さらに頻繁に聞かれることになるだろう。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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