Gabriel Rubin
[ワシントン 14日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 派手好きな不動産王として知られるトランプ米大統領が、建物の改修工事の費用が過大だとある人物を攻撃している。あり得ないことに、それが米連邦準備理事会(FRB)の独立性にとって最も差し迫った脅威かもしれない。
ホワイトハウスが利下げを求める中で、米国家経済会議(NEC)のハセット委員長は13日、首都ワシントンにあるFRB本部の改修費用が24億ドルに膨れ上がった問題について、特にパウエル議長がどこまで関係しているかを政権として調査していると明かした。
ただ、連邦最高裁判所がパウエル氏を不当に解任することはできないとの判断を示した後だけに、こうした政権の動きは何とも浅薄な策略にみえる。そもそも、たとえパウエル氏を辞めさせることができたとしても、合議によって決定されるFRBの金融政策を1人の議長が覆すのはもっと難しい。
トランプ氏はパウエル氏への嫌悪感を露骨に示し、利下げに関して「遅過ぎる」と非難を浴びせてきた。しかしそう簡単に解任できないことが証明されている。パウエル氏は2026年5月まで任期を残しており、最高裁は今年5月、FRB議長を恣意的な解任から守る規定は合憲だとの見解を示した。
一方で、引き続き合理的な根拠に基づく解任は法的に許容される。そこにFRB本部改修費用がかさんでいる問題で、宮殿のような豪華施設が備えられているといった批判が広がった。FRBは11日、これに反論し、改修理由として有害な鉛やアスベストの除去を挙げた。パウエル氏も6月に新しい水回りの設備や屋上庭園などはないと説明していた。
本部改修費用を巡る攻撃が不首尾に終わったとしても、トランプ政権によるFRBへの圧力はさまざまな面に及んでいる。トランプ氏はパウエル氏に政策金利を下げろと迫り続け、ハセット氏が14日にFRBの独立性を認識していると言いながら政権内では、早い段階でパウエル氏の後任を指名して「影の議長」を登場させることも検討中だ。
ところが、このような闘争を通じて、トランプ政権が打ち出す経済政策の効力は弱まってしまうだろう。トランプ氏がよりハト派的な議長をパウエル氏の後任に据えることができても、この次期議長は合意に基づいて金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)の12人のメンバーと対峙しなければならない。特にFRBの信任が市場の安定にとって致命的に重要である以上、独立性を脅かす動きに批判が殺到する状況にはいら立ちも感じるかもしれない。
トランプ氏には、パウエル氏が任期満了となった時点で、自身の見通しにより従順な人物、例えば現FRB理事のクリストファー・ウォラー氏などを起用する選択肢もある。
いずれにせよ政府の不動産工事を巡る対立はトランプ氏の興味(interests)を引くかもしれないが、決して金利(interest rate)変更にはつながらない。
●背景となるニュース
*米大統領にパウエル氏解任権限、FRB改修調査次第で 政権高官が見解nL6N3TA051
*FRB議長、本部改修費用を巡り監察を要請 政権の批判に対応かnL6N3TB0JC
*連邦最高裁は5月、FRBの議長と理事は他の政治任用者に比べて解任から手厚く守られていると判断し、その理由としてFRBが「独自構造を持つ準純民間組織(訂正)であることを挙げた。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)