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COLUMN-〔BREAKINGVIEWS〕マスク氏、新党結成で危ない賭け テスラは再び置き去り

ロイターJul 8, 2025 4:05 AM

Jonathan Guilford

- 米電気自動車(EV)大手テスラTSLA.Oのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は物事がうまくいかない時、本能的に「さらに強く突き進む」。EVメーカーとして最も成功したモデルを構築するという開発地獄、昨年はテスラの将来のために米大統領選でトランプ氏を支援するなど、マスク氏はこれまで数多くのリスクを取ってきた。こうしたリスクには、何らかの見返りが期待できた。しかし今回発表した新党結成は、金銭的な見返りがこれまでよりも小さいのに政治的リスクを最大限まで引き上げている。

マスク氏のトランプ支持という政治的な賭けは当初、大当たりしたように思われた。テスラ株は2024年11月の大統領選後に急騰した。これは世界一の富豪マスク氏が自動運転車のような政策の推進に関してトランプ氏に直接意見を伝えることができ有利になるとの期待からだ。しかし、マスク氏が率いた「政府効率化省」の厳しいコスト削減は消費者の反発を招き、テスラは主要市場で売り上げが落ち込んだ。マスク氏はホワイトハウスの有力な人物たちとの関係も悪化し5月末に政府を離れた。

テスラの投資家たちはマスク氏が再び経営に戻ることで業績が回復すると期待していた。自動運転タクシー「ロボタクシー」やロボットのような将来の技術革新は株主から評価されている。とはいえ、足元の状況は厳しく、アナリストの今年の利益予想は、1月のほぼ半分に下がっている。テスラ株は7日の取引開始直後時に6.5%下落したが、将来に対する希望と見るに堪えない現状が混在し、LSEGによると予想株価収益率(PER)は126倍と驚異的な水準だ。

新党「アメリカ党」を立ち上げて米国の二大政党体制に挑むのは、ロボットや宇宙船にも勝る無謀とも言える大胆な試みだろう。米国は第三政党の候補者が長年にわたり失敗してきた歴史を持つ。1960年代や90年代に第三政党の候補者たちが注目された時期もあったが制度を打破するには遠く及ばなかった。民主社会主義者のバーニー・サンダース氏のような無所属候補者が結局は二大政党の枠組みの中で活動している。

マスク氏は、自身の莫大な資産の一部を投じて来年の中間選挙の活動に干渉すれば、政治的な影響力をある程度得られると考えているかもしれない。テスラのロボタクシーの試験運行は規制当局の厳しい監視下にある。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じたように、テスラが中国で独占的に享受している優遇措置もまた、マスク氏のトランプ政権に対する影響力が低下するにつれて見通しが不確かになるかもしれない。マスク氏が率いる航空宇宙企業スペースXも連邦政府と結ぶ契約に大きく依存している。

今回の政治への投資は再びマスク氏の関心を大きくそらすことになる。マスク氏は、EV開発で圧倒的にリードする地位を築き、自動運転機能を早期に市場投入して成功を納めたように、トランプ氏を支持し政治的な賭けにいったんは勝った。しかしマスク氏はそのたびに勝ち取った優位性を無駄遣いした。これまで以上に骨が折れる上に利益が得られるのかはっきりしないことに挑んで再び優位に立つ──そんなマスク氏の姿をテスラの投資家は見守るしかないのだ。

●背景となるニュース

*マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 中間選挙にらみ揺さぶりnL6N3T3000

*マスク氏の新党結成「ばかげている」、混乱招くとトランプ氏一蹴nL6N3T400C

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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