By Jennifer Saba
[ニューヨーク 26日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領が、中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」のサービス禁止猶予期限を何度も変更していることが、問題を招き寄せようとしている。
トランプ氏は19日、ティックトックのサービス禁止を猶予して米国事業売却に向けた交渉を促す措置を90日間延長する大統領令に署名した。今回で3回目の延長を決めたことで、トランプ氏は議会で可決され、大統領が署名し、連邦最高裁がお墨付きを与えた決定事項を無視する形になっている。厚かましいほどの法軽視姿勢はさまざまな結果をもたらす。その中にはメタ・プラットフォームズMETA.Oとグーグル親会社アルファベットGOOGL.Oに将来解体を命じてもそれに従わない口実を与えるという事態も含まれる。
ティックトックを巡る問題の発端は第1次トランプ政権まで遡る。2020年8月、トランプ氏はティックトックが国家安全保障の脅威になっていると宣言し、活動を妨げる制裁措置を導入。ティックトックは、ソフトウエア開発のオラクルORCL.Nをはじめとする複数の買い手候補に取り囲まれながら反撃に出た。それから4年後、議会はティックトックの中国親会社に対して、アルゴリズムの特殊技術込みでの米国事業売却を義務づけ、それが実現しなければサービス提供を禁止する法案を承認。バイデン前大統領が署名して成立したこの法令は、最高裁判事が全員一致で合憲と判断した。
しかし2期目の大統領に就任したトランプ氏のティックトックに対する態度は二転三転した挙げ句、19日にサービス禁止猶予の延長を命じた。このような法的に曖昧な姿勢は、アップルAAPL.Oとアルファベットにとってはリスクになる。ティックトックのアプリのダウンロードを許した責任をあとで問われかねないからだ。さらにそうした疑念は、巨大テック企業の規制強化の取り組みを困難にする恐れもある。
例えば連邦取引委員会(FTC)はメタを反トラスト法(独占禁止法)に違反していると提訴した。2012年のインスタグラム買収などが理由だ。一方メタ側は、全米で約1億7000万人の利用者を抱えるティックトックが最大の競争相手の1つだと主張し、一般的に受け入れられた関連市場の定義を広げている。少なくとも裁判所が分割を命令しても、政権が外国の親会社を持つ競争相手に適用される法律を順守するのを拒むとすれば、独占禁止当局が分割を強制する力は弱まってしまう。
アルファベットとアマゾン・ドット・コムAMZN.Oも、資産売却命令につながる可能性がある規制上の課題に直面している。アップルに至っては、トランプ氏から既にヒントをもらっているのかもしれない。今月裁判所は、エピックの人気ゲーム「フォートナイト」のようなアプリの開発者がユーザーを外部決済手段に誘導しやすくするための是正措置命令をアップルが無視していると非難した。
メタのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)やアマゾン・ドット・コム創業者ジェフ・ベゾス氏が、裁判所の正式な手続きを迂回し、トランプ氏と「裏取引」をするのを阻止する明確な手段は存在しない。実際、例えばFTCは今週、オムニコムOMC.NによるインターパブリックIPG.N買収計画について、政治的ないし思想的な理由に基づいて顧客に広告費の使い道を助言しないと同意したことで、この広告業界の大型M&Aを承認した。ティックトックに関する時間軸が延びれば延びるほど、時限爆弾は大きくなる。
●背景となるニュース
*トランプ米大統領は19日、ティックトックの中国親会社が米国事業を売却し、サービス禁止を回避できる期限を9月17日まで延長する大統領令に署名した。nL6N3SM0SF
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)