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〔アングル〕トランプ氏「ほめ殺し作戦」に徹したNATO、重要問題は先送り

ロイターJun 26, 2025 2:29 AM

Andrew Gray Sabine Siebold Lili Bayer Anthony Deutsch

- トランプ米大統領への称賛を惜しまず、王室カードを切り、スローガンまで真似る――。北大西洋条約機構(NATO)はオランダ・ハーグで開いた首脳会議で、あの手この手でトランプ氏を満足させ、結束維持を図った。

この計画は成功したものの、ウクライナ戦争、対ロシア戦略、米軍の欧州撤退の可能性など、NATOにとって極めて重要な懸案事項はほとんど後回しにされた。NATOは早晩、これらの問題への対処も迫られるだろう。

ルッテNATO事務総長の計画通り、トランプ氏の要求に応じて加盟各国が防衛支出を現在の目標である国内総生産(GDP)比2%から5%に大きく引き上げると約束したこと、そして米国がNATO集団防衛の順守を再確認したことが、首脳会議の主な成果だった。

数カ月前の状況を考えると隔世の感がある。当時、欧米関係には緊張が走り、現在ドイツ首相となったメルツ氏は選挙で勝利した後、ハーグ首脳会議までNATOが現在の形で存続しているかどうか疑わしいと発言した。

NATOはあからさまにトランプ氏引き留め戦略を講じた。ルッテ氏はトランプ氏に対し、称賛の言葉を並べてトランプ氏流に大文字まで使ったメッセージを送り、同氏はハーグに向かう機中でこれを披露した。

「何十年もの間、どの米大統領も成し遂げられなかったことを貴殿は達成するでしょう。欧州は当然のこととして多額の(BIG)支出を実施し、それは貴殿の勝利となるでしょう」

またルッテ氏は首脳会議の直前、トランプ氏がイランとイスラエルを激しく非難したことについて「父親は時々強い言葉を使わなければならない」と、ごまをすった。

トランプ氏は1期目にNATO脱退の脅しを繰り返し、防衛費を十分支出しない同盟国は保護しないと言明していただけに、NATOは命運がかかっていた。

2022年にロシアがウクライナに侵攻して以降、大半のNATO加盟国はロシアがますます安全保障上の直接的な脅威になってきたと考え、核保有超大国である米国の助けが無ければ自国の防衛は困難だと認識している。

以前は辛辣だったトランプ氏のNATOに対する言辞は、首脳会議後にはすっかり変わっていた。

「この人々は本当に自国を愛していると述べながら、私はここを去った。NATOはぼったくりではない。そしてわれわれはこの人々を支援し、守るためにここにいる」とトランプ氏は記者団に語った。

トランプ氏は、新たな防衛費目標に署名しなかったスペインのみを批判し、スペインは別の形、つまり米国との貿易関係においてその分を支払うだろうと述べた。

多くの欧州諸国は、新たな防衛支出目標を達成するのが経済的に困難となる見通しだが、その問題は後日に持ち越された。

<ほめ殺し>

トランプ氏「ほめ殺し」作戦の一環として、トランプ氏は首脳会議に先立ち、オランダ国王の王宮に宿泊するという、まれな栄誉を授けられた。

首脳会議冒頭、他のNATO首脳からもトランプ氏を称賛する言葉が相次いだ。リトアニアのナウセーダ大統領は、NATOの合言葉を「NATOを再び偉大に」とすべきだと提案した。

ルッテ氏はトランプ氏との衝突のリスクを最小限に抑えるため、首脳会議を短時間で簡潔に終わらせた。

ウクライナのゼレンスキー大統領は首脳会議に出席できず会議前の夕食会への出席にとどめざるを得なかったが、会議後にはトランプ氏と個別会談を行った。

首脳宣言はわずか5段落で、昨年ワシントンで開催された首脳会議の宣言(38段落)から大幅に圧縮された。

宣言は、ロシアのウクライナでの軍事行動を「戦争」や「侵略」と明記せず、ウクライナが将来同盟に加盟するという約束を再確認する文言も盛り込まれなかった。

首脳会議は米国のNATOへの関与を再確認し、新たな防衛支出目標に焦点を絞ることで、ロシアとウクライナを巡る米国と多くの欧州諸国の見解相違を覆い隠した。

こうした外交的妥協により、NATOは当面結束を保てるかもしれないが、対ロシア姿勢といった根本的な問題で米欧間の大きな相違が長期化する限り、NATOが効果的に機能するのは難しいだろう。

バイデン前米政権下でNATO大使を務めたジュリアン・スミス氏は「依然として激化するウクライナでの戦争を実質的に無視したNATO首脳会議は、われわれ全員を不安にする」と話す。

スロバキアの元NATO大使、ペーテル・バートル氏は「われわれはロシアの指導者に戦略的なメッセージを送る機会を逃した。われわれの安全保障は代償を払わされるだろう」と語った。

NATO当局者らは、NATOに熱意を示すようになったトランプ氏の変化が、米政府の軍事態勢見直しに反映されるかどうかを注視することになる。

英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のシニアフェロー、オアナ・ルンゲスク氏は「欧州の高官らとこの件について話すと、懸念が伝わってくる。大多数は、米国防総省が一部の部隊と軍事能力の撤収を開始すると予想しているが、その規模や時期は誰も分からない」と不安を吐露した。

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