Gabriel Rubin
[ワシントン 22日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領が要求してきた利下げが実現するかもしれない。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は22日、任期中で最後となる西部ワイオミング州ジャクソンホール会合での講演で、9月の次回連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げする可能性を示唆した。これはパウエル氏とホワイトハウス、浮かれ気味の株式市場の足並みがそろった束の間の出来事と言える。だが利下げする理由は、貿易戦争に起因する2つのマイナス要素が一時的にある種の均衡状態を保っていることだ。刑事捜査や解任の脅しを受け、経済データが攻撃される中で、名目的には独立した機関とされるFRBに対する大統領の干渉は強まりつつある。景気減速という厳しい現実がより鮮明になるとともに、さらなる対立が待ち受けている。
パウエル氏はこの日の講演で、数多くの不確実性を列挙したが、その大半はトランプ政権の税制策と貿易政策によってもたらされている。関税が不均一かつ期間を延ばす形で発動されている点を踏まえ、パウエル氏は企業が適応に苦戦を続けることから物価への圧力はしばらく継続する恐れがあると指摘した。悪夢のシナリオは、この事態が生活費高騰に対処しようとする労働者の賃上げ要求につながり、賃金と物価の上昇スパイラルを引き起こす展開だ。
しかし今のところそうした心配よりも、労働市場がじりじりと弱くなり、FOMCにとって「厳しい状況」を生み出しているのではないかとの懸念の方が大きい。この「奇妙なバランス」を受け、パウエル氏は慎重な態度ながらも9月の利下げに肯定的な見方を示し、投資家は歓喜してS&P総合500種が2%近く跳ね上がった。
パウエル氏は、今後の利下げの道筋はデータ次第で「われわれはその方針から決して逸脱しない」と言い切った。いつもの年なら退屈な表現かもしれないが、今回は来年5月に退任するパウエル氏にとって最後のジャクソンホール会合での講演という観点からは、特別な重みを持つ発言だ。
しかも足元では、外部の介入なしに金融政策を決定するFRBの能力が攻撃にさらされている。パウエル氏の講演直前には、住宅ローン詐欺に関与したと政権から非難されているクックFRB理事に罵声を浴びせた男性が保安官代理によって会場から連れ出され、パウエル氏の登壇中、トランプ氏はクック理事の解任をちらつかせた。既にトランプ氏は、労働省労働統計局の局長を解任している。同局も独立的に統計を策定し、FRBが政策判断で頼りにする組織だ。
ホワイトハウスのFRBに対する影響力はこの先拡大する一方だろう。トランプ氏は自身に忠実なスティーブン・ミラン大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を空席となるFRB理事に指名。7月のFOMCでは、いずれも第1次トランプ政権時代に任命された2人のメンバーが政策金利据え置きに反対票を投じており、これは過去30年余りぶりの異例な事態だった。パウエル氏の後任議長の座を狙う候補者たちも、恐らく同様にハト派姿勢になる可能性は十分にある。問題は、経済環境がそうしたハト派路線と矛盾する方向へ急激に振れてしまった場合にどうなるかだ。パウエル氏は柔らかい語り口でしばしばメッセージを送る。だが警告する内容は誰が見てもはっきりしている。
●背景となるニュース
*FRB議長、利下げに道 「慎重に進める」ともnL6N3UE0JH
*FRB、金融政策の枠組みを微調整 インフレ目標の柔軟性強化へnL6N3UE0MB
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)