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COLUMN-〔BREAKINGVIEWS〕日本企業も関心、AIブームが呼ぶ米大型原子力事業

ロイターOct 29, 2025 3:09 AM

Robert Cyran

- 人工知能(AI)ブームが大規模な原子力事業の呼び水になっている。米政府は、ブルックフィールド・アセット・マネジメントBAM.TOとカメコCCO.TOが所有するウェスチングハウス・エレクトリックの技術を用いた総事業費800億ドルの原発建設を目指しており、日本が支援に動きつつある。この取引の複雑で条件付きの性質は、大幅な電力不足の存在を浮き彫りにしている。

マイクロソフトMSFT.Oやアマゾン・ドット・コムAMZN.Oといった巨大テック企業は手元資金を使って膨大な電力を消費するAI用データセンターの建設に乗り出した。一方で、電力会社は供給能力確保のため無理のない範囲で借金をしてきた。しかし必要な資金総額があまりにも急速に膨らんでおり、もはやついてくことができない。マッキンゼーによると、AI分野で2030年までに必要な投資は5兆ドルを超える。このような資金調達の厳しさから、エヌビディアNVDA.OやオープンAIなどにまるでウロボロス(自分の尻尾をくわえて食べるヘビ)のような財務構造をもたらした。米電力会業界の方は、最高格付けを維持する企業がどんどん少なくなっている。

だが原発はあらゆる事業の中で最もコストがかさみ、予測不能な部類の案件で、だからこそ推進には消極的になるのが一般的だ。昨年完了した最新のプロジェクトは予定より何年も遅れ、事業費は当初見積もられた140億ドルの2倍余りに膨らんだ。

とはいえ現時点でAI利用に伴うエネルギー需要を避けて通ることはできない。米エネルギー省の試算では、2023年にデータセンターが電力使用量に占める割合は4%前後だったが、28年には最大12%まで高まる可能性がある。

その大部分を負担するのは太陽光になるだろう。北米最大級の電力・エネルギーインフラ企業ネクステラ・エナジーはこの夏、太陽光発電に蓄電池を組み合わせた電源は即時導入可能で、コストは1メガワット時当たり約35-75ドルだと述べた。ラザードの計算によると、新たな原子炉建設のコストはその3倍で、建設時間もずっと長くなる。

それでも特に技術的な発展が可能なら、原子力にも活用余地はある。28日に日米が取りまとめた共同文書では、日本が米国に約束したインフラプロジェクトなどへの最大5500億ドルの支援について、両国ともに原子力に関心を示していることが記された。さまざまな発表内容からすると、この一部の800億ドルはブルックフィールドとカメコが主導する原発プロジェクトに充てられ、米政府は事業認可の迅速な取得を後押しするとともに、融資保証を付与するとみられる。

万事順調に進めば、この取り決めは8つの1ギガワット級原発建設につながるかもしれない。これらの建設が速やかに行われ、コストが当初想定内に収まれば、追加受注も期待できる。ウェスチングハウスの企業評価が一定水準を超えて上場を果たす場合、米国の納税者に金銭的な恩恵がもたらされる。

こうした計画は米国の原子力事業として過去数十年で最も大きな成功の可能性を秘めている。ただ歴史を振り返ると、原子力事業はあっという間に支援のはしごが外されることもあり得る。ウェスチングハウスは、東芝に保有されていた2017年に結局破綻したが、その理由は過大なコスト負担だった。AIの「過剰宣伝」に伴う不透明感が漂う中で、十分な電力を生み出すのは、核分裂と同じぐらい難しいだろう。

●背景となるニュース

*米政府、新大型原子炉建設に向け3社と800億ドル規模の協力協定nL6N3WA01G

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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