
[ロンドン 6日 ロイター] - 石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国で構成する「OPECプラス」が増産を継続していることで、生産余力は浸食されつつある。この生産余力は近年、価格変動を緩和する重要なバッファー役を果たしてきただけに、トレーダーは今後、より厳しい状況に直面するかもしれない。
過去3年間の石油市場では、供給不足が生じてもOPECプラスが素早く埋められるという説が強く信じられてきた。OPECプラスは2022年に減産を実施して以降、最終的に日量585万バレル(世界需要の約5.5%)もの減産に至った。
この結果、世界の「予備生産能力」は増加した。これは、国際エネルギー機関(IEA)が「90日以内に到達可能で、長期にわたり維持できる生産水準」と定義する生産能力だ。つまり、世界市場に迅速かつ持続的に投入できる追加供給能力を指す。
<急減するバッファー>
このバッファーの存在は、昨年6月のイスラエル・イラン紛争時の油価急騰を和らげるのに一役買った可能性があるほか、ウクライナ戦争が激化する中で相場変動を抑えたとも考えられる。
OPECプラスが生産を急速に増やせる以上、市場は供給途絶の可能性に直面してもパニックにならずに済んだ。
しかしOPECプラスの有志8カ国が4月に減産解除を開始して以降、このバッファーは急速に薄くなっている。
これらの国々は5日、11月に日量13万7000バレルの追加増産を実施することで合意した。これにより、4月以降の生産増加分は目標ベースで日量計270万バレル以上に達する見込みだ。
増産につれて予備生産能力は自ずと減少する。そして一部の推計によれば、バッファーは既に以前想定されていたよりも薄くなっている可能性がある。
<増産の障壁>
IEAのデータによると、OPECプラスの予備生産能力は8月時点で日量推計410万バレルで、その約60%をサウジアラビアが、20%をアラブ首長国連邦(UAE)が有している。
これは大きな量に聞こえるかもしれない。しかし、4月以降に各国が増産に苦慮してきた様子を見る限り、一部の加盟国は予備生産能力を迅速かつ持続的に活用するのが難しいようだ。
ロイターの分析によれば、OPECプラスは4月から8月にかけて、増産目標を平均75%しか達成できなかった。目標の日量192万バレルを約50万バレル下回っている状態だ。
このことは、過去3年間で予備生産能力の水準が低下した可能性を示唆している。長期間停止していた油井を再開するには、予想以上に多くの時間と投資が必要となるためだろう。
もちろん、4月以降の不足分の一部は、イラクなどの加盟国が過去の過剰生産を相殺するため意図的に生産を抑制したのが原因だ。さらにIEAのデータによれば、8月にはOPECプラスの生産量が目標を日量76万バレル上回ったが、これは主にイラクの過剰生産によるものだ。
しかし今後を考えると、大半の産油国は持続的に増産する余地が限られているように見える。
年初に生産枠を大幅に超過したカザフスタンは、現在では増産の余地がほとんどない。
アルジェリアとオマーンも、生産能力の限界に達しているようだ。
石油・ガス産業が欧米の厳しい制裁に直面しているロシアは増産に苦戦しており、ここ数カ月間にウクライナのドローン攻撃によってインフラが被害を受けたことで、生産量がさらに減少する恐れがある。
<サウジの真の生産能力>
しかし市場が本当に知りたいのは、サウジアラビアの真の生産能力だ。世界最大の原油輸出国である同国は、採算価格が低い膨大な石油埋蔵量にアクセスできる。8月の生産量は日量969万バレルであり、推定される予備生産能力と合わせると、理論上は日量1200万バレル以上まで増産できる計算になる。
サウジは新たなOPECプラス合意に基づき、11月に生産量を日量1006万バレルに増やす予定だ。
しかし最近の歴史を見ると、同国が日量1200万バレルの壁を突破したのは2020年4月の1カ月間だけだ。国際機関協働データイニシアチブ(JODI)によると、コロナ禍で世界的な消費が急減したため、生産量はすぐに日量750万バレルまで急減した。
さらに、サウジの生産量が日量1100万バレルに達したのは2018年と23年の短い期間だけだ。日量1000万バレルを超えたのも数回のみ。最長は15年3月から16年12月にかけての期間で、この間の平均生産量は日量1040万バレルだった。また、世界経済がコロナ禍から回復した21年12月から23年4月にかけても日量1000万バレルを超えた。
24年1月、サウジのエネルギー省は国営石油会社アラムコに対し、最大持続可能生産量を日量1200万バレルとするよう命じ、同1300万バレルへの引き上げ計画を放棄した。
したがって歴史的事例に基づけば、サウジの真の予備生産能力は現在、日量60万―100万バレルの範囲にとどまる可能性が高い。
<歴史的低水準のバッファー>
OPECプラス全体ではどうか。UAE、クウェート、イラクの推定予備生産能力、日量計130万バレルと修正後のサウジの数値を合わせると、OPECプラスのバッファーは日量約200万バレル、世界需要の約2%相当となる。これは過去平均の下限付近だ。
OPECプラスの増産決定は現在、原油価格を圧迫しているが、上記のことを踏まえれば、実際の増産は思うように進まず、将来的に価格上昇圧力をもたらす可能性がある。
いずれにせよ、ウクライナ、ロシア、中東で地政学的緊張が高まる中、エネルギー市場にはバッファーが必要になるかもしれない。しかしOPECプラスは自らのバッファーを急速に消耗しつつあるようだ。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
COLUMN-Surging OPEC+ oil output leaves market with shrinking shock absorbers: Bousso nL6N3VM01P
OPEC+ unwinds
Saudi Arabia's crude oil production