Parisa Hafezi John Irish Francois Murphy
[国連/ウィーン 28日 ロイター] - イランの核開発問題を巡る国連の対イラン制裁が米東部時間27日午後8時(日本時間28日午前9時)に再発動した。これにより、イランの核開発をいかに抑制し、監視するかに関する西側諸国の取り組みは振り出しに戻った、と複数の外交官や専門家らは指摘している。
英国、フランス、ドイツの欧州3カ国(E3)は、2015年の核合意で解除された制裁を復活させる「スナップバック」手続きを始めた際に、6月に米国とイスラエルが空爆した核施設への国際原子力機関(IAEA)の早急な査察を受け入れ、米国と核問題で再び協議するべきだというE3の要求にイラン側が屈すると期待していた。
ところがニューヨークの国連総会におけるぎりぎりの協議を続けても、E3によるとイランは制裁復活阻止に向けてほとんど歩み寄らなかったという。
イランのある強硬派の国会議員は「スナップバック手続きは西側にとって最後の弾丸で、一度引き金を引いてしまえば弾はなくなる。彼らにはもういかなる交渉の武器も残されない」と言い切った。
<失った切り札>
西側諸国の複数の外交官は、米国とE3はまだ国連制裁やそのほかの制裁を解除する手段があると反論する。ただ解除には相当骨の折れる過程を経る必要があり、E3が最近求めてきたようなイランの迅速な譲歩を引き出せる公算は乏しい。
シンクタンク、核脅威イニシアティブ(NTI)のエリック・ブリュワー氏は「米国はイランの主要施設を爆撃するという『切り札』を使い(イランの)核開発プログラムが後退したのは間違いないが、完全に除去されたわけではない」と語る。
その上で「イランは米国が提示する取引条件を満たすつもりはない。しかし米国は持続的な解決に向けた取引をなお必要としているのは明らかであり、多くの面でわれわれは出発地点へと戻っている」と説明した。
再発動された制裁の下で、イランはウラン濃縮活動の完全停止や、この活動と核兵器開発に寄与する可能性がある物質の輸入禁止を強いられ、武器禁輸や核開発に関する個人・団体の資産凍結措置も講じられる。
制裁は2015年の核合意でイランが核開発を制限する見返りに解除され、この枠組みは18年に第1次トランプ政権下の米国が合意から一方的に離脱し、イランへ独自制裁を科すまで有効に機能していた。
その後イランはウラン濃縮活動を急速に拡大。米国とイスラエルは核兵器製造の可能性という点で許容できない段階に達したと判断し、6月の空爆につながった。イランは核兵器製造の意図を否定している。
<対話と圧力に回帰か>
イランは制裁再発動に対して、IAEAとの協力関係をさらに縮小するなど、外交的な報復措置を取ると表明している。
あるイラン政府高官は再発動直前に「制裁が復活すれば、われわれはIAEAとの関係を確実に見直す。査察制限が厳格化されるのは間違いないだろう」とくぎを刺した。
イラン国会は既にイスラエルによる空爆後、IAEAとの協力を一時停止し、査察受け入れには国家安全保障最高評議会の承認が必要とする法律を可決している。
IAEAとイランは今月、全面的な査察再開につながる合意に達したと発表したものの、それ以降目立った進展は見られていない。
E3の外交官らは、結局「対話と圧力」という2003年以来の戦略に回帰することになるだろうとの見方を示した。
<不透明性が武器に>
10年前と異なり、ロシアのウクライナ侵攻などを経て、核合意に加わった主要国間に溝が生じている。そのためイランに再び合意を迫るよう一致して圧力をかけるのは難しい。実際ロシアと中国は26日、国連安全保障理事会で最終的に否決されたものの、制裁再発動を回避する決議案を提出した。
それでもE3の外交官の1人は「イランのIAEAとの協力は既に限られ、今後一段と悪化する恐れはあるが、一足飛びに核拡散防止条約(NPT)脱退に至るとは思わない」と述べ、中国ないしロシアはイランが性急に核兵器保有へ動くのを容認しないだろうし、たとえ両国が容認しても、イスラエルが許さないと付け加えた。
イスラエル政府のある高官は、イランが秘密裏に核開発を進めない限り、現時点で再び空爆すべき理由はないとした上で「イランもわれわれが監視しているのを知っている」と説明した。
一方でシンクタンク「国際危機グループ」のアリ・バエズ氏は「(イスラエルとの)戦争前はイランにとって核開発計画の進展状況が交渉手段の柱だったが、今は不透明性こそが武器になっている」と分析する。
バエズ氏は「だがそれはリスクの高い賭けでもある。イランが核開発プログラムの一部を再開しようとして、IAEAの査察官がいない中でもそれが判明すれば、イランの意図を巡る懸念は高まる一方になるだろう」と言及した。